桜の鬼【完】

それだけで? 永遠を生きてもいいと思った。ゆきにもう一度逢えるなら――もう、人間になれなくてもいいと思った。

ゆきは、願い続けた希(ねがい)より大事だった。……櫻の生きる理由になった。

「……俺が今いるってことは、今までの俺はゆきに逢えなかったってことだよな……?」

自分の手のひらを見ながら、櫻は自分に問いかける。

俺は何度古木に導かれたんだ? ゆきを探して何度も生きたはずだ。では、俺は願いが叶えられたら消えるのではないのか? ……今いるのならば、叶えられていないと考えられる。

「………」
 
わけわからん。俺は、頭はよく動かないんだ。言葉もよく知らないし。名前すらなかった自分に総てをくれたのは、ゆきだった。

「……俺はまたゆきに逢えなかったのか……」

湖雪は、別の鬼のものになった。以前に、櫻には彼女がゆきではないという確信があった。

《ゆき》ではない。その確信ひとつで十分過ぎた。しかし、ならばという疑問がある。俺は……どうして今に生きている?

桜が導くのは《ゆき》の許へ。湖雪がそうでないならば、自分が再びこの世に喚(よ)ばれた意味がわからない。

「…………?」

考えるも、五秒で放棄する櫻。やっぱり頭を使うのは苦手だ。幹から雪に飛び降りる。実態を持たない櫻に、降り積もった雪は動かない。

今、そんな自分のことより重大なことがあるんじゃないか。

言葉を果たそうとしている虹琳寺惣一郎――。

『俺の、命尽きるまで』――……。

惣一郎の命は、尽きようとしている。

「残酷なのは……誰なのだろうな」

櫻は、枯れ樹のようになった古木を見上げた。


俺は一番――この桜が罪深く見える。

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