ねぇ、放さないよ?
「お兄さん、行ってきます」
「うん、気をつけてね!」

小さく手を振る有愛に、玄琉は微笑み手を振った。


有愛は、今日の玄琉に違和感を感じていた。
いつもなら………

「なるべく早く帰ってきてね」
「待ち合わせ場所まで送ろうか?」
「てか、ドタキャンしたら?」

と、駄々をこねるように言ってきてたからだ。


“スムーズに出してくれてよかった”ということにしておこう。
そう思い、深く考えないようにしたのだった。





しかしその日、いくら待っても進治は待ち合わせ場所に現れなかった━━━━━━


10時に駅に待ち合わせていた、有愛。

近くのカフェの窓から待ち合わせ場所を見ながら、17時まで待ち続けた。
電話をかけても、電源が入っていないようで繋がらない。

結局来なくて、有愛は自宅に帰ったのだ。


「ただいま…」
「おかえり!
楽しかった?
“友達”と遊んで」

「え?あ、うん…」

“ドタキャンされた”何て言えない。
言ってしまうと、デートのことがバレてしまうから。

「ありちゃん?」
「え?何?」

「どうしたの?」

「う、ううん」

「元気ないよ?
遊びに行ってきたんじゃないの?
楽しくなかったの?」

「ううん、そんなことないよ。
私、着替えてくるね」
そう言って、部屋に戻った有愛。

その後ろ姿を見て、玄琉はほくそ笑んでいた。
「ほんっと、わかりやすっ!」


その日を境に、進治は職場にも来なくなった。
さすがの有愛も、不審に感じていた。


「━━━━━━最近、遊びに行かないんだね」
玄琉が言う。

「え?」
「だって最近、休みの日は遊びに出かけてたでしょ?」

「あ、うん…」


「………………振られたの?」


「………え…━━━!!?
お兄…さん……?」

「あ、違うかぁー」

「え?え?」

「“いなくなった”の間違いだよね?」

「………」
(何を、言ってるの…?)


「野舘 進治ってクズのことだよ」


「━━━━━━!!!!!?」

「僕の有愛をたぶらかした、クズ」

「………」


有愛は、完全に固まっていた。

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