ねぇ、放さないよ?
そして、美里愛の亡くなる一日前━━━━━

「ありちゃん」
有愛の部屋にノックの音が響く。

「はぁーい!」
ドアを開けると、微笑んでいる玄琉がいた。

「今、忙しい?」
「ううん!」

「デートしない?」

「え……で、デート?」

「うん!可愛い妹と、たまにはデートしたいなって!」
「で、でも…お姉ちゃんに悪いし……」

申し訳なさそうに言う有愛に、玄琉も少し切なそうに呟いた。
「…………美里愛のことも…」
「え?」

「相談があるんだ……!
付き合ってくれる?」



「━━━━━気持ちいいね!」
「フフ…でしょ?」
海の見えるカフェにいる、二人。

「ここ、お姉ちゃんとも来たの?」

「………」
微笑んでいた玄琉が、途端に黙り、険しい表情(かお)をした。

「お、お兄さん?」

「やめない?美里愛の話は。
せっかく二人でいるんだし」

「え……」
(ほんと、どうしたんだろ?
お姉ちゃんもお兄さんも、やっぱおかしい)

「何か…あったの…?」
「ん?」

「お姉ちゃんと何か……」

「………そうだね…」
「お姉ちゃんも、なんかおかしいし。
どうしたの?二人」

「うーん…上手く言えないんだけど……
お互い、仕事が忙しいからかな?
喧嘩がたえなくてね……」
「そうだったんだ……」

「だから、ありちゃんといると落ち着くんだ。
また、デートしよ?」

「うん。そうゆうことなら……!」


「お兄さん、今日は私に奢らせて?」
「え?ダメだよ!」

「だって、いつもお兄さんが当たり前に払ってるもん!
私だって、働いてるんだよ?」
「確かにそうだけど……
ありちゃんには、何でもしてあげたいんだ!」

「でも、たまには!」
見上げて微笑む有愛に、玄琉も微笑んだ。
「わかった!ありがとう。じゃあ…ご馳走様!」


「━━━━━━なんか、デートっていいね!」
「ん?」
帰りの車内。
助手席に座っている有愛が、ポツリと言った。

「しかも!お兄さんみたいな、素敵な男性とのデート!」
「そう?ありがと!」

「私ね。
あんまり、良い思い出がなくて……
お付き合いした人はいたんだけど、なんかこんなんじゃなかったから……」
窓の外を見ながら、ポツリ、ポツリと言う有愛。

赤信号で止まった玄琉は、有愛の頭を撫でた。
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