ねぇ、放さないよ?
「━━━━━有愛ー、おはよ~」

その日、会社に出勤してデスクで雑誌を見ていると、友人の里見(さとみ) 並子(なみこ)が声をかけてきた。

「おはよう!」
「何してんの?」

「部屋、探してるの」

「え?なんで?
お兄さんに出ていけって言われたの?
お姉さん亡くなったけど、関係なく住んでいいって言われたんでしょ?
しかも、家事全般やってくれてるし。
それにこんな言い方ダメだけど…
これをきっかけに、いつかお兄さんと恋人になれたらいいなって話してたじゃん!」

「うん。
でも………」
「ん?」

「並子ちゃんだから、話すけど……」
「うん」

「最近……お兄さん、怖くて………」
「怖い?」



今朝もそうだが、玄琉は時々恐ろしい言動がある。

「━━━━せっかく、いなくなったのに…」
信じられない思いで玄琉を見ると、玄琉は“……なーんてね!(笑)”と言って笑った。


その他にも、二人でショッピング中━━━━━

煙草を吸いに行った玄琉を、近くのベンチで待っていた有愛。
突然、隣に中年の男性が座ってきた。
まだ昼なのに、酒を飲んでいるようで酒臭い。

「お嬢ちゃん、可愛いね~」
「え?」
(や、やだ……)

「おじさんと遊ばない?」
「い、嫌です…!」

(嫌!!お兄さん、助けて!!)
慌てて立ち上がり、喫煙所へ向かう。

「ちょっと、待ってよぉー!」
ガシッと手を掴まれた。
「離して……」
あまりこんな経験をしたことのない、有愛。
途端に、震え出す。

すると、グッと強い力で反対の手を引っ張られた。
そして抱き締められた。
安心する香りに包まれて、震えが止まる。

「この子に触るな!クズ!」
凄まじい表情で、玄琉が男を睨み付けていた。

「━━━━っ…!!?」

有愛の知ってる玄琉は、優しくて柔らかく微笑む紳士。
しかし今は、別人のように恐ろしい。

冷たくて、刺すような視線。
相手の男性も、ビビって立ち去った。

「………ったく…
………ありちゃん、大丈夫!?
ごめんね、一人にして!」
「う、ううん!大丈夫だよ!」

「強がらないの!さっき、かなり震えてたでしょ?
もう一人にしないからね!」
この一件から、喫煙所にまで連れていかれるようになったのだ。
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