ねぇ、放さないよ?
そしてそれから数日後の晩━━━━━

「━━━━ありちゃん!
夕御飯できたよー!」
ノックして、ドアを開けた玄琉。

有愛はテーブルに賃貸雑誌と通帳を置き、真剣に見比べていた。
なかなか良い物件がなくて、悩んでいた。

「あーりちゃん!何してるの?」
後ろから玄琉が覗き込んでくる。

「え?あ、お兄さん!?」
真剣に見ていて、全く気づかなかった有愛。
今やっと気づき、ビクッと身体を震わせた。

「何?これ━━━━━は?賃貸?
……………なんで?」

「え?あ、これは……」

「まさかとは思うけど、ここから出ていこうだなんて思ってねぇよな?」

「え………」
(な、なんか…口調が……)

「有愛」

「え?」
(こ、怖い……)

「この雑誌、捨てるから」
「え!?」

「は?だって、いらねぇよな?」

「お兄さん、怒らないで!
これは、その……」

「………」
玄琉は、天井を見上げ深呼吸した。
そして再度、有愛に向き直った。
「ありちゃん。
ここを出て行かないで。
僕は、ありちゃんにずっと傍にいてほしいって思ってるんだ!
頼むから、僕を一人にしないで?」
すがるように、有愛を抱き締めた。

「うん…わかった…」
有愛は、そう答える“しか”なかった。

そしてその日の夜更け、トイレに起きた有愛は見てしまった。

キッチンの換気扇の下で煙草を吸っていた玄琉。
流し台がやけに明るい。
目をこらして見ると、なんと有愛が見ていた賃貸の雑誌を燃やしていたのだ。

玄琉に気づかれないように、部屋に戻り布団を頭から被る。


“ここから……お兄さんから放れなければ……!!”

有愛の中の、危険信号がなっていた━━━━━━




次の日の朝。
「ありちゃん、おはよ!」
ベッド脇に腰かけた玄琉が、微笑んでいた。

「おはよう…」


「ありちゃん。
もう二度と、ここから出ていこうなんて言わないでね?」
微笑み言う玄琉。
しかし、その笑顔の中には“絶対的な圧力”が込められていた。

「うん…」
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