天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

「せっかく買ってきたんだ、食べて欲しいな」
「ありがとうございます、いただきます」

表情が柔らかくなった素子は、今度は否定せずに頭を下げてお礼を言った。
ウエットティッシュで手を拭いて律儀に手を合わせてからサンドイッチを手に取り食べ始めようとすれば、誠が机に頬杖をつき自分をじっと見ていることに気がついた。

「そんなに見られると食べにくいんですけど」
「あーごめん。なんだか微笑ましくて。
僕さ、いつも福永さんからハリネズミみたいに威嚇されてるような気がしていたから」

素子がまたなんとも言えないような微妙な顔になるとサンドイッチを置こうとしたので、誠はからかってごめんと笑ってサンドイッチが乾燥するよと食べるのをせっつく。
仕方なく素子が食べ出すと、誠は満足そうな顔をしてコーヒーを飲んでいた。

「プリンは?もしかして嫌いだった?」

サンドイッチだけ食べてプリンを端に避けた素子に聞くと、

「いえ、好きです」
「じゃぁ食べて」

すぐに仕事に取りかかろうかと思ったが、ためらいつつ素子がプリンの蓋を取ると誠が前のめりで覗いていた。
その目は見たことも無くキラキラとしていて、もしや、と素子は思う。

「もしかして芝崎さんがプリン好きなのでは」
「あ、バレた?」

はは、と頬を掻く誠はいつもの優しげな雰囲気では無く子供っぽい。

「芝崎さんのは買わなかったんですか?」

苦笑いして答えない誠に素子はその意味を考え、あ、と思わず声を漏らした。

「もしかしてこれが最後の一個だったのでは」
「えーっとまぁそう。
けどね?食べて欲しい人に買ってきたわけで僕は良いんだよ」

笑顔で話す誠に素子はスプーンとプリンを差し出した。

「では半分こにしましょう。
残りを私に頂けますか」

真面目な顔でそう言った素子に、誠はきょとんとしたあと吹きだした。
半分こ、そんな単語しばらく聞いたことも無かった気がする。

「もしかして福永さんって長女?」
「そう、ですけど」
「面倒見の良いお姉さんって感じだもんね。
僕は次男で自由に育ってる分、自分のをわざわざ人にあげるってのがなかなか出来なくて。
ではお言葉に甘えて」

そういうと素子から受け取ったプリンを早速嬉しそうに食べている。
その顔を素子は見て、相手の方が年上なのに可愛く思えてしまう。
いつもは平等に笑顔で誰にでも接している相手が、自分の前でこんなにも子供のような顔をされて、素子はむず痒い気持ちになった。
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