天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「データの打ち込み、残りはどれくらい?」
「・・・・・・まだ半分はあるかと」
食べ終わり、一息ついて誠へ礼を言った素子に誠が聞いてきた。
「その半分ちょうだいよ。
こっちで打ち込んでデータそっち送るからそれで貼り付ければいいでしょ」
「でも」
「そもそも君がしてるのは業務外のことだからね。
それで残業代が出るのは」
わざと鎌を掛けてみた。
案の定そこで素子が黙って俯く。
誠の言葉に否定しなくてはと思いつつも、それは馬場に残業無しで仕事を命じられたことを意味してしまう。
「まさか定時で帰ったことになってるんじゃ」
確認のために言葉を続ければ素子はまた黙ったまま。
誠は額に手を置いて天を仰ぐ。
分かってはいたことだが、あえて今知ったというジェスチャーを入れる。
「あーなるほど。
それなら余計半分こっちに渡して。
君が『させられていること』は問題行為だよ」
誠がわざと一部分を強めに言うと、俯いていた素子の体がびくりと動いた。
(おそらく今回だけじゃ無いな。おかげで証拠が増えていいけど)
誠は自分の本来の仕事を助ける証拠が増えることに笑いそうになる。
本当にお人好しで真面目な社員だな。
利用されそれでも食らいついているのは、このご時世彼女の年齢で仕事未経験、ようやくコネで就職できた正社員ということから簡単に辞めることはできないのだろう。
(悪いけどまだ利用させて貰うね。
そんな安い食べ物の差し入れで許して貰えるわけは無いだろうけど)
誠は自分の持ってきた鞄からノートパソコンを取り出し起動させる。
このパソコンで入力すれば、履歴が残りそのデータは証拠となる。
「はい、終電に間に合いたいならよこして。
問題行為は早く済ませよう」
誠が手を出すと、素子は逡巡していたが諦めたように半分年賀状を差し出した。
「作ったエクセルの表をそちらに送りますのでメアドを」
「面倒だからこのUSBに入れて」
そう言って誠が銀色のUSBを差し出すと素子は頷いてデータを入れると返す。
「よろしくお願いします」
律儀に頭を下げた素子に誠は利用していることなどおくびにも出さず、笑顔で任せてと答えた。
誠は隣の席で自分の仕事をしながらちらりと素子を見る。
薄化粧、髪は後ろに一つにまとめ、学校では委員長と呼ばれていそうな真面目な風貌に服装。
爪はマニキュアもなく、胸元にアクセサリーの一つのも無い。
持っているバッグも黒のシンプルな物だが、ブランド物では無いのを誠はチェックしていた。