天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「では私も帰りますので」
帰る準備を済ませた素子が横に立つ誠を見上げると、
「じゃぁ僕も帰ろうかな。
何か一緒に晩飯でも食べない?」
さらっとそんなことを言う誠に素子は戸惑う。
そうやっていつも色々な女性に声をかけているのだろうか。
それとも可哀想に思えてだろうかと判断がつかない。
ただ心配なのはこの事だ。
「昨日芝崎さんと一緒に帰っているところを同僚に見られていたんです。
私と一緒に居ると芝崎さんにご迷惑を掛けますので」
しっかり誠を見て頭を下げる。
それを聞いて不思議と誠は腹立たしく感じた。
そういう事をわざわざ言いに来る女も、たったそれだけで自分と距離を置こうとする相手にも。
昨日は笑ってくれたじゃ無いか。
そしてそんな事に苛立つ自分も理由が分からなくて腹立たしい。
「僕と一緒じゃ迷惑?」
「いえ」
迷惑?と聞かれれば彼女の性格上すぐにノーとは言えないだろう。
わかっていてやる自分も性格が悪いと思いつつたたみ込む。
「いつも晩飯一人でさ、味気ないんだよね。
だれか、それも気兼ねなく食べられる相手も限られているから福永さんを誘ったんだけどな」
寂しそうに言う誠に素子の心が痛む。
せっかく誘ってくれているのに。
一人の食事は味気ない、それはいつも一人で食べている素子には十分分かる話だ。
それにここで奢れば少しは昨日のお礼になるかも知れないと考えた。
「わかりました」
降参したように眉を下げた素子に、誠は犬の耳が上がるかのようにパッと表情を明るくさせ、
「良かった。
何が良い?焼き肉?」
「すみません焼き肉は好きですが、そのなんというか」
「そっか、髪長いし臭い気になるかな。
じゃぁパスタとかどう?
サラダやお酒も美味しい店があるんだよね。
店自体うるさいとこじゃないし」
「高級じゃ無いですよね?」
「イタリアンだよ?
僕も焼き肉好きだから今度焼き肉行く日は臭いも気にしない週末に。
もう帰る準備終わってるんだよね?
じゃぁ僕も準備するから一緒に行こう」
何故か次の予定が入れられているようだ。
確かにもう素子の帰る準備は終えている。
鞄を持つと微笑む誠の後をついていった。