天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
『ここが法務チームの』
誠に着いてきたのは初めて入る法務チームの仕事場。
総務部の中に作るのだからフロアも同じにとするべきなのだが、旭株式会社の方が小さな抵抗をして総務部の入るフロアの一つ下の階、元は会議室だった場所を法務チームの場所にした。
新しい法務チームの仕事場に窓は一つだけ、デスクが三つ並んでいて周囲には本やどこからか持ってきた資料の棚がこぢんまりとある。
いかにも即席で作ったという感じだ。
初めて来た素子は顔を動かさないものの、視線は周囲を興味深そうに見ている。
そんな様子に誠は気付いたが、素知らぬふりで帰る準備を始めた。
「本社の法務部は場所ももっと大きいんだけどね。
ここはまぁつなぎのような所だけれど、彼らに最低限の知識はつけて貰わないと。
何でもかんでも本社に投げられたら困るし」
「本社法務部の業務内容は多岐にわたっているんですか?」
「そうだね、僕の他にも弁護士がもう一人いるし。
けど社員は全員法学部卒って訳じゃ無い。
あくが強い人間が揃ってるから、そこを支えてくれたりする人もいるしありがたいよ」
準備を終え誠が顔を上げると素子は入り口近くに立ったまま真っ直ぐ誠を見ていた。
「福永さんとはゆっくり話したがしたかったんだ。さ、いこ」
何か言いたげな素子を察してその肩を叩いて二人は会社を出た。