天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
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「嘘つき」
「これで駄目なの?」
素子は恨みがましい目で誠を見る。
タクシーに乗り、二人が降りたのは銀座。
大通りから何本か中に入った通りにあるビルの地下なのだが、階段で下りるような場所では無くエレベーターで下りれば広いホール、中はモノクロをベースとしたモダンな店だ。
「二人なんですが空いてますか?」
「はい。お待ちください」
入ってきた途端すぐに来た男性スタッフに誠は声をかける。
実は誠にとってここは馴染みの店。
レベルの高い店は異性を連れてきている場合は特に馴染みの店であることを店側がアピールすることは無い。
客から要望されているのを感じればそうするが、そこは普通の客と同じように扱うのがマナーだ。
奥の四人座ってもゆったりできそうな半円形ソファー席に案内される。
ここの店はテーブルの間隔が空いていて密集していない。
楽しげな声はしても客層自体落ち着いた雰囲気を味わいに来ているのでわきまえていた。
素子は自分の経験からイタリアンはもっとカジュアルだと思っていたのに、フレンチレストランとも思えそうな場所に驚いてしまった。
自分はいつもと変わらないリクルートスーツのような味気ない服装。
誠はきっちりスーツを着ているが、オーダーメイドなので身体にぴったりと合っている。
それだけで着こなしというのは違って、綺麗な顔に程よい筋肉質のスタイルが映えていた。
素子はこういう場所の価格帯がわからないので早くメニューで確認したいが、パスタでいくらするだろうかとヒヤヒヤする。
だが仕方が無い。
素子はいざとなればカードで支払いをしようと心に決めた。
メニューが運ばれ、誠はドリンクメニューを開く。
「福永さんってお酒いけるほう?」
「普通かと」
「ワインならグラスで二杯くらい大丈夫?」
「はい」
「ならボトルで頼もう。
白と赤、どっちが良い?
魚とか肉とか合わせるのは気にしなくて良いよ。
今、飲みたいのは?」
「では、白で」
「いいね、僕も白が良かったんだ」
にこりと笑う誠に、なんて上手くリードしてくれるのかと素子は感心してしまう。
「サラダ、ここの定番のでいいかな。
あと早めに出てくる前菜も欲しいね」
素子はメニューを開き、書かれている値段に冷や汗が出そうだった。
お洒落な名前とともにあるその値段、そしてワインをボトルでなどと考えると合計数万の出費は覚悟しなければならない。
奨学金を返済しながらなので素子は切り詰めて生活していているのでその額は大きい。
だがそんなことは個人の事情であって、それを誠に言ってはならないことくらい理解している。