天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~


何だか顔を強ばらせている素子に気付き、誠が声をかけた。

「やっぱり好きじゃ無かった?」
「いえ、違います」

素子と視線が合った途端、素子はすぐに逸らしてしまった。
今まで連れてきた女子なら自分が食事に誘うと喜びを隠しきれなかったり、恥ずかしがってなどと考えるが、素子がそうだとは今まで見ていて思えない。
顎に手を当て、誠は今までの素子の性格からなんとなく思い当たった。

「言っておくけど、僕が誘ったからここの代金は僕が払うからね」
「そんな!
遅くまで仕事手伝って貰ったんですし何かお礼を」

その素子の反応に誠は呆れてしまった。
何という律儀な性格。そして損な性格。
今までの子なら誘われた時点で奢られること前提で喜んで応じるのに、彼女は最初からそんな事を考えていたなんて。
本当に不器用だ。
ここでそんな真面目さを出すより、甘えられる方が男は喜ぶというのに。
そう思うと、何とか彼女の違う面が見たくなる。
あの時笑ってくれたように、もっと彼女が笑うのならどんなに。
まずは彼女のその不器用さと警戒する壁を崩さなければならない。

「この店を選んだのは僕だし、そもそも晩ご飯に付き合って欲しいとお願いしたんだよ?
そこで相手に払わせるとかそれこそ礼儀知らずだよ。
これは相手が女性でも男性でも同じ。
あ、僕より年上で凄く金払いがいい人なら別ね。
それなら計算してもっと高いとこをねだるよ」

誠は笑うとまだおろおろしている素子に、注文しちゃうよと言って手を上げスタッフを呼ぶ。
白ワインのボトルとサラダ、そして生ハムなどの前菜をオーダーした。
少しして先ほどの男性スタッフが茶のワゴンを押して二人のテーブルの横に来た。
薄いグラスを二人の前に置く。
出されたのはリーデルの職人が手作りしているお値段の高いシリーズ。
薄いガラスを作るのは技術が必要なのでその分機械で作られるより遙かに高い。
口径部が薄いのでワインの口当たりが一般的なガラスのグラスに比べれば段違いで、こういう事にこだわっている店というのは当然ワインにもこだわっている。

男性スタッフの黒いベストの胸元にはソムリエバッジ。
二人にワインのラベルを見せながら説明し、素子は初めての経験に何も言葉が入ってこない。
スタッフがソムリエナイフで瓶の上部に切れ込みを入れ、最後はゆっくりとコルクを抜く。
その作業すら演出のようで、素子は食い入るように見ている。
誠はそんな素子を見ていて自然と口元が緩んだ。

グラスに一般的な白ワインの色よりも琥珀色の液体が注がれ、スタッフは会釈をすると離れていき、誠がグラスを持つと素子も慌ててグラスを持つ。

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