天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

「そうだな、初めてのデートに乾杯」
「え?」

ぽかんと口を開けたまま固まった素子に誠は吹き出し、冗談だよというとワインに口をつけた。

「うん、美味しい。福永さんは?」

飲むように促され、素子はデートなどと揶揄われた事に戸惑いつつ一口飲んでみる。
適度に冷えた白ワインは良い香りを鼻に届かせ、フルーティーながら軽い飲み口に思わず、美味しいですと答えた。
それを誠は満足そうに見て、また飲み始める。
前菜などが届けられる度、素子が取り分けようとするのをすぐに誠がしてしまう。

「あの、私が」
「いーのいーの、実は苦手な野菜あるから弾きたいんだよね」

そういう理由なら任せた方が良いのだろうかと思いつつ、渡されたサラダを見るとどちらも均一にカラフルな種類が入っている。
そして誠から食べ始めれば、素子も続くように食べ始めた。
ワインを飲んだり何か食べる度に、素子が目をキラキラさせているのが誠は面白い。
おそらく贅沢というかこういう外食はあまりしないのだろう。
美味しい物、知らない世界を自分が素子に初めて教えた気がして不思議と優越感を抱いていた。

軽い話題を誠がふれば、素子は最低限の答えしか返さない。
だが食事もメインになりかなり酒も入ってきたせいか、素子の警戒が最初より崩れてきてきて会話も弾み出す。
パスタは二人とも今日お勧めという魚介スープのパスタを選んだ。
細い麺にそのスープが絡んで、魚介の味がしっかりとするのにうるさくはない。

「このパスタ美味しいです。スープも良い味で」
「こういう時はバケットをつけて食べたいよねー」
「ここだとフォカッチャですね。
オリーブオイルとお塩の組み合わせも良いですけど、やはりスープにつけて食べたいです」
「やろうやろう、絶対美味い」

二人して出されていた厚みのあるフォカッチャを一口大にしてスープにつける。
スープをたっぷり含んだフォカッチャを食べると、素子は幸せそうに顔をほころばせた。

「ほんと福永さんって美味しそうに食べるね」
「そうですか?」

少し前なら警戒していた素子も、今は気を抜いたように返事をする。
それが誠は楽しい。
ずっと警戒されていた猫の餌付けに成功したように思えているのだろうか、と誠は内心笑う。

「美味しそうに食べる相手と食事するって良いね。
こういうのも好みがあるからさ、ここのお店の味付けを気に入ってくれたようで僕は嬉しいよ。
結構外食好きだから食べ歩きたいんだよね」
「家で作ったりは?」
「一人暮らしだし面倒だから買ってくるかな。
作れないわけじゃ無いけど、疲れてるから食べれればいいやって。
福永さんは食事作るんでしょ?
一人暮らしで偉いね」

素子は自分が一人暮らしとは言っていないが、狭い社内、どこからか聞いたのだろうと思った。
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