天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

「どうしても節約しなきゃならなくて」
「もしかして大学とかの奨学金?」
「はい。ロースクールが奨学金だったので返済が」
「あー、あれはきついよね。
知ってると思うけど、一時期司法修習生は給与は支払われずに生活費を貸与するシステムになったじゃ無い?
数年後また給与復活で、与時代の修習生は谷間世代なんて呼ばれているけど、僕も該当してて。
ロースクールと修習生時代の返還がダブルでのしかかってるよ」

肩を落とした誠に素子は驚いた。
司法修習生期間の貸与返還は全員なので仕方が無いとしても、ロースクールを奨学金でというのは予想外だった。
良い家のお坊ちゃんなどと会社で小耳に挟んでいたので、当然学費は親が出している物だと思っていた。
ここでも自分が勝手に思い込んで羨んでいたことが素子は恥ずかしい。

「ロースクールが奨学金なんて意外でした」
「はは、意外かもね。
ボンボンだって言われてるしそれは否定しないけど」
「しないんですか・・・・・・」

素子の呆れたような顔に誠は笑ってワインを飲む。

「法学部に進むことは親に許されたけど、ロースクールに行くのは反対されたんだ。
どうせ受からないだろうに、時間の無駄みたいな事を父親から言われてね。
なら奨学金借りてロースクール行って、一発で合格してやると。
そんなに格好をつけるなら予備試験で浮かれよと思うだろうけど、もちろん受けて落ちてるよ。
何とかロースクール卒業後一回目で合格したけど、正直成績はあんまり良くなかった。
でもまぁ合格すればこっちのものだからね、胸張って合格を両親に報告したら、もっと出来る人間は大学生で受かるものだ、なんて言うからまた喧嘩。
上見たってキリが無いっての」

誠は大げさに肩を上下する。
初めて聞いた内容に素子は共感とそして自分の不甲斐なさを痛感する。

自分も反対されて奨学金を借りてまでロースクールに行った。
真面目に必死に勉強していたし、模試の成績も悪くなかった。
なのに落ちた。
教員からは運の悪いときもある、きっと来年は合格するなんて声をかけられて、くじけそうになりながら親を説得しつつ勉強していた。
だが今は。

彼には彼の悩みや苦しみがあるのはわかる。
だけれど、と素子は持っていたフォークを置いて自然と顔が下がる。

「聞きたかったんだけど」

誠の声に俯いていた顔を上げると、誠は素子の目をしっかり捉えた。

「なんであんな真似したの?」

あんな真似。
やはり彼は知っているのだ。

素子は再度俯いた。
素子が馬場のパワハラのターゲットになったのは理由がある。
それは以前馬場のターゲットになっていた女性社員を他の社員のいる前で庇ったからだ。

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