天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「ありがとうございます。
芝崎さんの指摘は耳が痛かったですが正しいことですし。
そしてあの行動をそういう風に言って貰えたのも初めてです。
芝崎さんはそういうのをあまり持ってない、なんて言いましたけど、馬場課長の一件で助けてくれたじゃ無いですか。
今まで誰も言葉すらかけてくれませんでしたから。
あの時のサンドイッチとプリンの味は忘れないと思います」
素子は心から感謝をしていた。
勝手に誠を自分のイメージで決めつけていたが、実際動いて助けてくれた唯一の人。
それがどれだけ素子の心に温かさを与え、勇気づけられたことか。
自然と素子の表情は柔らかい笑みを浮かべていた。
誠は目を見開いた。
素子のふわりとした笑顔に釘付けになってしまう。
いつもは警戒している女性が、こんな風に無防備に笑顔を浮かべている。
そんなのは今までだっておそらくあったはずなのに、何故か素子の笑顔は誠の心に響く。
その反面、恐ろしいほどの罪悪感が押し寄せてきた。
それこそ優しくしたのは下心があったから。
あんなちっぽけな行為をここまで彼女は大切に感じていたなんて。
だが今日食事を誘った理由を誠は仕事だからとは言い切れない。
彼女と話がしてみたかった。
少しでも労ってあげたかった。
いつも頑張っている彼女を甘やかしてあげたかった。
それは仕事の理由故か、ただ純粋に彼女を知りたかったからなのか、誠には自分が分からない。
「大げさだな。
それに僕だって四ヶ月あの会社に通ってて、あのたった一回だしそもそもたいしたことはしてないよ」
「そんなことはありません。
たった一回、ゼロとイチの間はとても大きなものです。
それこそ誰かのために行動することのハードルの高さを知っているからこそ、私は感謝しています」
ただ思う事すら出来ない人間は多い。
しかし思っても行動に移せるかは全く違うハードルの高さだ。
それをわざわざ誠がしてくれたことは、やはり素子にとって大きかった。
純粋に感謝している素子を見て、誠は頭を掻く。
彼女は純粋で、真面目で、正義感の強い女性。
そして笑った顔はとても可愛いと思ってしまう。