天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

こうやって馬場が素子を周囲がいる前で怒鳴ることは日常茶飯事だ。
または無理難題を押しつけたり、逆にミスばかりだからと何もさせないときもある。
いわゆる典型的なパワハラ。
やっていないことをでっちあげられ、それで責められる。
それを証明しろというのはいわゆる『悪魔の証明』だ。
本来そういう事を言い出した方に証明責任があることを素子はわかっているが、相手に言っても無駄なので黙っている。
素子はいつもの怒鳴り声を聞きながら、馬場が一息ついたところを見計らうと、

「繰り返しますが私はキャンセルなどしていません。
ですが課長のおっしゃるように今後同じようなミスが多発しては問題です。
まずは何故そうなったか検証し、そして電話だけで受け付けるようなお店では無く確実な」
「また口答えか!女のくせに忌ま忌ましい!
可愛げも無い年のくせに、そんな事に時間を割くくらいなら少しは他の若い女子社員から女らしさくらい見習えばいいものを。
もういい、仕事に戻れ」

素子は軽く頭を下げ自分の席に戻る。
素子の隣にいる女子からクスクスと笑い声が聞こえた。
そんな素子に誰もいたわりの声をかける者はいない。

キャンセルの電話も誰かからの嫌がらせ。
どうせ課長の指示で動いた人間か、ご機嫌取りの連中によるものだろう。
それを探し出されては困るから課長もあぁいう終わりかたをせざるを得ないのだろうけれど。

ため息をつきそうな気持ちを押し殺して、素子は仕事を再開させた。
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