天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「福永さん」
はい、と素子が答える。
「良ければ定期的にやりとりしない?」
「やりとり、ですか?」
不思議そうな素子に誠は自然に話題を振った。
「僕は純粋に福永さんの事、知りたいんだよね」
デザートとして出てきていたティラミスを食べていた素子の手が止まった。
誠はその驚きに満ちた表情に思わず笑う。
素子は先ほどから誠の発言が読めない。
ワインが回っているのだろうかと思うほどだ。
そんな誠は楽しそうに笑った。
「毎日一回はやりとりをしようよ。
おはようでもおやすみでもいい。
スタンプだけでもいい。
質問でも愚痴でもいいし。
ようは、いつでも話が出来るようにしておきたい」
せめて彼女が一人だけでは無いと思えるように。
もちろん、情報を得るのが目的だとしても。
誠は自分に言い訳するようにそんな事を考える。
素子はワインのせいかわからないが、恥ずかしそうにしながら、はい、と答えた。
それがまた誠の何かをくすぐる。
「もちろん疲れてて送らない日もあっていいからね。
僕もスマホ持ったまま寝落ちすることあるし」
「それは、良くないですね」
「福永さんはきっちりしていそう」
「そうでもないです。
よく充電ケーブルつないだつもりで近くにスマホが置いてあったりしたこともあるので」
ははっ、と身体を丸めて笑う誠に、素子は不思議な気持ちを抱いていた。
嫌われているのかと思っていればこんな提案をしてくる。
彼のことをもっと知りたい。
彼が言ってくれたように、私のことも知って欲しい。
そんな初めての感情に、素子自身も戸惑っている。
だけれどこんな機会を逃したくない、それは正直な気持ちだった。
スタッフが絶妙なタイミングで、二人の空いたワイングラスにワインを注ぐ。
お互い最後の一杯。
誠はそのワイングラスを持って、素子の方に手を伸ばした。
「では僕たちの新たな門出に」
素子は笑って、自分のグラスを誠のグラスに近づける。
グラスをくつけることなく、ほんの少し距離を開けて二人は止める。
まるでそこまで距離が縮まることを望むかのように。
そして二人は同時にワインを飲むと顔を見合わせて笑った。