天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
『今昼飯中?また手作り弁当なの?』
『そうです』
『写真ちょうだい』
『もう食べかけなので無理です』
『それでもいいから』
素子はそんな内容が届いた画面を見て困っていた。
既に三分の一は食べてしまい、しばらく悩んだ後、一部の無傷なおかずをアップで撮って送ることにした。
素子から写真が届く。
食べた場所を写さないようにか微妙なアングルで煮込んだハンバーグのアップが届き、誠は思わず笑った。
『美味そう。いつか食べてみたい』
さてどう返ってくるだろう。
『機会があれば』
という返事に、誠は諸手を挙げて喜ぶスタンプを押した。
そのマークに既読マークだけついて返信は無い。
どんな気持ちで返信し、このスタンプを彼女は見たのだろうと思うだけで誠はクスリと笑う。
「お前なぁ」
「良いだろ、良い関係を築いていた方が便利なんだし」
小暮が対面でいそいそとスマートフォンで返信している姿を見て言うと、誠は事もなげに返した。
小暮としてはずっと駒扱いしていた社員に、異様なほど誠が接近しているのはただの計算には思えない。
「そんな関係になって良いのか?」
小暮の表情は真剣だった。
自分を心配する同僚に誠は軽く笑う。
「少しくらい誰かと繋がってると感じた方が彼女も頑張れるだろう?」
「それはどの意味を含んでいるんだ?」
誠は答えず笑うだけで、スマートフォンの画面を見ながら残りの食事を再開する。
小暮はそんな誠を見て、軽く息を吐いた。