天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
その後も子会社に誠は行くが、素子の総務部とはフロアが違うためなかなか会うことは無い。
素子とのやりとりは、誠の粘り強さと素子の真面目さのおかげで続いた。
誠が馬場のことを心配すれば、素子は大丈夫ですと返す。
誠は週三くらいで素子の会社に来ていたが、もう期間も残り少ないため法務チームの部屋に籠もることが多い。
今日くらい昼休みに素子のフロアが休憩室にのぞきに行こうと部屋を出ると、正面から来た女性社員が誠に笑顔で近づいてきた。
「あ、芝崎さん!お昼一緒しませんか?」
須賀の顔は誠も覚えていたが、どうも待ち伏せされていたらしいのはわかった。
誠の滞在期間が減るにつれ、会ったことも無い女子からも食事だのなんだのと誘われることが増え余計に時間をとられることで、素子の様子を見ることが出来ない要因でもあった。
「すみません、もうコンビニで買ってきたので」
手に持っていた白いビニールを掲げれば、
「私もお弁当作ってきてるので一緒に食べましょ!」
「いえ、打ち合わせも兼ねてこれから」
「それくらい良いじゃ無いですか、休憩室に行きましょう!」
やんわり断ろうとする誠に須賀は上目遣いでお願いし、そしてその腕を引っ張り出した。
(総務部の情報を聞き出すのに利用するか。
休憩室なら彼女もいるかも知れないし)
休憩室には誠の読みは外れ、素子はどこにもいなかった。
仕方なく誠は休憩室でテーブルを挟み、須賀と食事をとる。
須賀は誠に手料理を作るのが趣味なのだとアピールしながら、周囲の女子からの妬みの視線に優越感を抱いていた。
ずっと自分のアピールを続けるか、誠のプライベートに踏み込んで質問攻めしている須賀に誠は内心うんざりしながら、営業用の笑顔で聞き流しつつ情報収集の質問を挟む。