天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「芝崎さんがいなくなった後、これから二人だけで回すなんて怖いですよ」
「本当は三名要望していたんだけどね、本社は。
けど君たち二人で十分だ、他に該当者もいないって突っぱねられて」
誠がこの会社に歓迎されていないことはわかっていたが、馬鹿げたプライドのためにどうしてこういう自分たちに不利になることをするのかと呆れたものだ。
社員達も会社には不満があるのだろう、新しく来たビールを飲みながら、
「ほんとは一人候補がいたんですけど」
「あぁ、福永さんね」
「知ってたんですか?」
「もちろん。
でも馬場課長が一方的に断ったんでしょ?
女性も一人入ってて貰うと良かったんだけど」
誠が日本酒の入ったグラスを持ちながら大げさにため息をつくと、既に内情を知られていたと安心した二人の口は軽くなった。
今まで最低限のことしか本社には漏らすなと古株の上層部からきつく言われていた。
それは素子がパワハラに遭っていることを皆知っていて見て見ぬ振りをしている以上、後ろめたさから二人も素子に触れることを避けていた。
だが酒も入り、いかにも誠は事情を知っているという話をしだして二人は安心して色々と話し始めた。
素子も候補として入っていたが馬場の嫌がらせの一つだったこと、馬場自身がずっと課長で終わるよりも新しい法務チームへ行きたがっていたこと。
多岐にわたる素子に対する嫌がらせという名のパワハラを二人が話し、それは誠の知らないものも含まれていた。
「だけどさ、昨日のは流石にな」
「馬場さんは彼女が勝手に転んだって言ってるらしいし、須賀さんはわざと自分にぶつかってきたせいで怪我したって騒いだらしいじゃないか。
あげく見てた連中に口止めしてるみたいだし」
「え、何の話?」
つい二人で話し続けていて誠は相づちだけ打っていたので、二人は言っては不味いことを口にしたことに気付き顔色が変わる。
「何の話?
今の流れだと馬場さんが福永さんに何かしたの?
あと須賀さんが怪我って?」
二人は顔を見合わせ黙り込んだ。
間違いない、何かかなり不味いことが起きた。
そう確信した誠は、
「二人は法務部に所属していますが、その中の法務チームにいることを忘れていませんか?
こういってはなんですが、今お二人の上司は私なんです。
正しい報告をせず、何か隠しているとなれば本社に報告せざるを得ませんね」
にっこりと、そしてゆっくりと誠が二人の目を見て話す。
優しげな顔から想像できないほどの鋭い目に二人は顔を強ばらせ、ボソボソと昨日起きたという話を誠に話し出した。