天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
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翌日、誠は午前中に本社で最終手続きを済ませ、小暮や法務部の女性社員男性社員の合計四名で旭株式会社に向かった。
馬場には今日明日出張に行って貰った。
まさか電波の入らない山で、SDGsの取り組みとして農作業をさせられることなどしらず、久しぶりの出張に馬場は当日朝に言われたというのに喜んで行った。
よって総務部のあるフロアには久しぶりに馬場もおらず、素子まで休みということで朝から社員達は羽を伸ばしていた。
「こんにちは、皆さん」
昼も終わり仕事を再開するにもまだ皆他の席に行って話に花を咲かせていたとき、フロアに誠の声が響き渡る。
皆驚いて誠の方を見ると、誠の他にも数名の社員らしき人間がいて皆ただ誠を見ていた。
誠の濃いグレースーツの胸元にあるのはひまわりのバッジ。
今までこの会社に来るときにはしたことのない弁護士バッジを今日はしているということ、それは誠がここに弁護士としてきたことを意味する。
「ただ今より、馬場課長のパワハラに関して皆さんから聞き取りを行います。
順番に一人ずつお呼びしますので席に戻って下さい」
社員達の顔色が変わり、周囲とどうしようか話し出そうとした社員達を誠は睨み、
「これから私語は一切禁止、原則離席は不可です。
どうしても席を離れる場合は許可を得た上でこちらの社員に同行してもらって下さい。
ようは、私達はあなた方を信用していないと言うことです」
誠の隣に立っていたネイビーのつややかなスーツを着た小暮は、硬直している社員達の間を通り馬場の席に行く。
鞄から持参してきたノートパソコンを机に置いて、前を向き社員達を見回した。
当然胸元には弁護士バッジが紺のスーツに映えるように花を咲かせている。
「本社法務部弁護士の小暮です。
許可が必要な場合は私に声をかけて下さい。
ですがよほど緊急以外許可は出しませんので皆さんそのつもりで。
はい、みなさん、お仕事始めましょう!」
小暮が笑顔で手を叩くと、皆強ばった表情のまま席に着く。
須賀は突然の状況に困惑しつつ、絶対に被害者としてアピールしなくてはと自分の足に巻かれた仰々しい包帯に視線を落とした。