天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
フロアと廊下を行き来する唯一のドアの前に前には本社の男性社員が一人立って、小暮がフロアを監視し静まりかえったフロアではエアコンの稼働音とパソコンのキーボードを叩く音が異様に響く。
もうこのフロアのほとんどの社員が聞き取りを終わらせ、戻ってきても顔を強ばらせたままで誰一人口を開かず仕事をしていた。
小暮がスマートフォンの着信に気付き、相手と電話する。
電話を切ると、
「須賀さんお待たせしました。法務チームの部屋へどうぞ。
あ、スマートフォンは置いていって下さいね」
スマホをスカートのポケットにこっそり入れようとした須賀に小暮が笑顔で釘を刺す。
須賀はすぐ気付かれたことに内心舌打ちして、包帯の巻いてある足を引きずるように会議室へ向かった。
「須賀です」
「どうぞ」
法務チームの部屋に須賀が入ったのは初めて。
この部屋には二人しかいないのに、謎の圧迫感に須賀は表情を引き締める。
部屋のは奥に誠が座り、斜め隣の席にはミディアムヘアで三十代くらいの女性社員がノートパソコンでずっと入力をしていた。
誠に言われ、須賀は対面の席に須賀は座らされる。
「では聞き取りを始めます」
「ま、待って下さい!」
誠が今まで聞き取った内容をまとめたデータをタブレットに出しながら言うと、須賀は大きな声を出した。
「ずっと言えなかったことがあるんです。
その、福永さんのことで」
ためらいがちに須賀が言うと、誠は表情も変えず何でしょう、と聞き返す。
須賀は馬場のご機嫌取りのため、素子にわざとミスをさせたりしていた。
そして先日起きた事。
これがもし今回のきっかけになっているなら早く自分が一番の被害者だと印象づけたい。
須賀は俯いていたが、思い切り顔を上げた。
「私、以前から福永さんにいじめられていたんです」
「そうでしたか。例えばどんなことがあったのですか?」
「仕事が出来ないとか、そういう服はおかしいとか」
「誰かその話をされたときにその場にいた人とかいませんか?」
「いつも女子トイレで二人になったときだったので。
それが分かってやっていたんだと思います」
「なるほど」
誠が伏し目がちに言うので、須賀は自分の話を真に受けていると感じた。
もちろん全て嘘だが、今は自分の身を守る方が先決。
その為なら手段を選んでいる暇は無いと須賀は考えていた。