天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
JRの中央線と総武線の止まる四ツ谷駅近くに素子の勤める会社のビルがある。
小さいものの一棟ビルを持っているのが、それだけ一時期は設けていた証しかも知れないが建物の老朽化は隠しきれない。
昼休み、素子は相変わらず一人、休憩室の隅で作ってきた弁当を食べていた。
ワンフロアの三分の二を使っているこの部屋は、社員が昼食を食べたり、雑談したり出来るようにテーブルや椅子がいたるところにあり、団らんの場所にもなっている。
そんな部屋の隅で素子は飲み物を飲もうと隣にある小さなテーブルに弁当を素子が置く。
目の前を通った女性社員たちがわざわざ素子の弁当の中身を見て、茶色!と笑いながら部屋を出て行った。
さすがにため息をついて鞄から出した緑茶のペットボトルを開けようとすると、何故か開かない。
何でこんなに固いのかと力を込めていたら、そのペットボトルが不意に奪われる。
驚いて素子が顔を上げると、そこには綺麗な顔の男が柔らかな笑みを浮かべて立っていた。
そして簡単にペットボトルの蓋をパキッと開けると、はい、と笑顔で素子に差し出す。
「僕でも役に立てることがあって何よりです」
受け取ろうとせずぽかんとしている素子に、男はその手にペットボトルを握らせた。
そして隣のテーブルにある素子の弁当に視線を動かした。
「お弁当、手作り?」
「はい」
「こういう和食、手間がかかるでしょう」
「単に昨日作った残り物です」
「晩ご飯も作るの?凄いね!」
「いえ、昨日はたまたまで」
「そんな美味しそうな和食を食べられる男は幸せだ。
でも何でも自分でやり過ぎずに手を抜くって事も時には大切だと思うよ」
にこにこと男の話すペースに素子は巻き込まれ、弁当をフォローされているようで最後は嫌みを言われたことに気付いて眉間に皺が寄る
「芝崎さん見つけた-!」
女子特有のような甲高く甘えるような声。
そこには窓口業務の看板女子二人が芝崎を挟むようにその両腕に手を回す。
それをそっと芝崎は笑顔で外した。
「女の子が軽はずみに男に触っちゃだめだよ」
「やだー!芝崎さんなら何されてもいいのに!」
「こんなとこじゃなく外行きましょ!」
女性二人は素子を見下したような目で見た後、芝崎の背中を押して休憩室から出て行った。