天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「それでも私、頑張っていたんです。
そしたら先日福永さんのミスをまた馬場課長が怒って。
私はたまらなくなって止めようと思って二人の間に入りました。
そしたら福永さんが私を怖い顔で突き飛ばしたんです。
それで転んで足をひねって」
須賀が泣きそうな顔で自分の左足をそっと前に出す。
膝上になったスカート丈から、自慢の美脚を見せ誠の反応を見る。
細い足首に巻かれた包帯にきっと彼も心を痛めるだろう。
そろりと須賀は誠の顔をのぞき見る。
「痛々しいですね。病院へは?」
「行ってないです。
痛いですが家にある湿布とかでなんとか」
「是非この後でも病院へ行って下さい。
福永さんにされたのでしょう?
今後のためにも診断書をとらなくて良いのですか?」
「そんなことをしたら福永さんの立場が悪くなってしまいます。
あの歳で採用されたのに解雇になんかなったら大変です。
私は彼女を追い詰めたくなんてないんです」
「そうですね、自主退職と解雇ではあまりに差がありすぎます。
ところで今まで何人もの方に伺っているんですが、須賀さんのその怪我、他の方々とは話が食い違うんですよ」
誠は須賀を見ること無く、女性社員が打ち込んだデータを同期した聞き取り内容を確認していく。
須賀もその辺りは想定済み。
わっ、と両手で顔を覆い、
「急な出来事でみんな見ていなかったと思います。
それでみんな勘違いを」
「他にも須賀さんは馬場さんの裏の指示によく従っていた、などという話もありましたね」
「そんなの知りません」
「知りません、その答えで結構です。
貴女は貴女自身に不利なことを言わなくても良い。
ですが、ここは法廷では無く会社です。
今ご自分がどういう状態に置かれているかは分かっておいた方が良いですよ」
平坦で、しかし苛立ちを隠さない誠の声に、本気で須賀は怯えた。
目だ。
あの目は何もかも分かっている目。
どうしよう、ここで馬場についても勝機は無いのかもしれない。
「これで最後です。
須賀さん、馬場課長について話しておきたいことはありませんか?」
誠の静かな問いかけに、須賀は顔を青くしながらその鋭い目から目をそらすことが出来ず、諦めた様に口を開いた。