天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
第四章 交際と偽の婚約者
素子の半ば強制的に取らされた有給も今日で終わり、明日から仕事。
ふと、また何度目かわからないほどスマートフォンの画面を見る。
だがそこにはいつもの母からのメールが数件と迷惑メール。
部屋には母から届いた大きな封書がある。
中に入っているのは全て結婚相談所のパンフレットだ。
母親からは、それを見たのか、どうするのかという電話とメールに素子はうんざりする。
誠が家に突然来た日から、二人のやりとりは止まっていた。
これからかなり忙しくなるので一段落したら必ず連絡するから、そう言って素子の家にかけつけた誠は帰っていった。
素子はため息をつきながらスマートフォンを机に置く。
私はこんなにもスマートフォンを見る人間だっただろうか。
いや、こんなにも彼とのやりとりを楽しみにしていたのか。
それをここ数日思い知らされた。
事情を知る友人達はあの一件を知り、いい加減会社を辞めろという。
さすがに誠とのことは話していないが、勘の良い友人は男がいるから辞めないの?などと茶化してきたりする。
「あの人は、私を可哀想に思っているだけ」
そう思わないと気持ちは苦しくなるだけ。
もうこの苦しみの理由はわかっている。
それを苦しいときに優しくして貰ったからだと必死に自分に言い聞かせても、その気持ちは静まることは無い。
スマートフォンから電話の着信音がなり、急いで見てみると画面には芝崎誠と表示されている。
はやる胸を押さえて、通話ボタンをタップした。
『芝崎です。福永さんのお電話でしょうか』
「はい、福永です」
形式張った言葉なのに、久しぶりに聞いた誠の声が素子をドキドキさせる。