天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

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素子は初めて本社の入っているビルに来た。
服装はいつも通りの膝丈スカートにジャケット。
だがこのビルに入る会社はIT系も多いせいか男女ともカジュアルな服装が多く、素子は自分だけが浮いているように思えて足早に一階の受付へ向かった。

来客用のIDカードを受け取り、本社のあるフロアにエレベーターで上がる。
エレベーターを降りると一人の女が待ち構えるように立っていた。
フレアスカートにジャケット、艶やかな髪。
上品な女性が素子ににこりと笑顔を見せ、

「福永様ですね、お待ちしていました。ご案内致します」
「よろしくお願いいたします」

先導され素子は緊張しながらその後ろを進む。
オフィスの作りは素子の会社とは全く違いかなり広々と作られていて、ところどころ別室のように部屋がある。
似たような茶色のドアが並ぶ場所に連れて行かれ、ルーム3というプレートのドアを女が開けた。
部屋一面の大きな窓と、オフホワイトのシンプルなソファーとローテーブル。
その一つの椅子に座るよう促され、その後ろから若い男性がお茶を素子の前に用意した。
まさか男性がお茶を持ってくるとは思わず素子が目を丸くすると、男性はにこりと笑みを浮かべ素子は失礼なことをした手前思わず頭を下げた。

「すぐに担当者が参ります。もう少々お待ちください」

最初の女性がそう言うと、二人は頭を下げて出て行く。
素子も頭を下げ、ドアが閉まると肩を下げた。

何もかもが自分の会社と違う。
こんなお洒落な応接も無いし、一人の来客に二名が担当する人員もいない。
もちろんお茶出しは女の仕事と決められているので、ここでは男性がするのかと驚きっぱなしだ。

これから何が起きるのだろう。
素子は誠がわざわざ家に来たことに心から救われた。
こんなにも気にしてくれた人がいて、それがどれだけ嬉しかったか。
本社の法務部に呼ばれた以上、自分が女性社員に怪我を負わせたという間違った情報が届いたのだろう。
ここで会社側から解雇か退職を迫られるはず。
または直接言われなくても、辞めた方が良いと遠回しなことを伝えられるのだろう。
心配なのは自分を気遣ってくれた誠のこと。
きっと彼なら本社に正しい事を言ってくれると信じたいが、それは誠を困らせることにもなる。

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