天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
(芝崎さんは信じると言ってくれた。それだけで十分だと思わなきゃ)
ドアをノックする音に素子ははい、と答えるとドアが開く。
素子が椅子から立ち上がると、入ってきたスーツの男は笑顔で座ってくださいと声をかけた。
「初めまして、法務部の小暮です」
小暮は机に書類の束やノートパソコンを置くと素子の前に座り挨拶をする。
そして胸ポケットから取り出した名刺入れから名刺を一枚とって素子に差し出した。
素子は両手で受け取って自分の名刺も慌てて出す。
そして素子はもらった名刺を机に置き、その名刺の肩書きに『弁護士』とあることに気付く。
(この人が本社法務部で芝崎さんともう一人の弁護士なんだ)
自分をまじまじと見ている素子に小暮は噴き出しそうな気持ちを抑え、
「今日はこちらまでご足労頂きありがとうございます。
芝崎は同席しませんが、二人だけで心配なら誰か女性社員を呼びましょうか?
一応監視カメラは至る所あるんですが」
素子は慌てて、大丈夫ですと返事をする。
だが誠が同席していないことであまり良くない話なのだろうと覚悟する。
わかりやすいほど自分が辞めさせられることに覚悟をしている顔をしている素子に、まずは安心させることにした。
「先に言っておきますが、福永さんを辞めさせるとかそういう話ではありません」
「そう、でしたか」
拍子抜けしたような気持ちを抑え、では何だろうと素子は思った。
「調査により馬場課長の、福永さん、そして木下ひかりさんへのパワーハラスメントを本社は認定したことをまずはお伝えします。
数日前本人を呼び出し直接聴取も行い、最初は本人は否定していましたが、証拠の数々を前に流石に最後は認めました。
そうは言っても最後は罵詈雑言の嵐で、自分から証拠の裏付けをして行ってくれましたけどね」
素子は言葉を失っていた。
まさかあの事が起きて数日休んでいる間に、そんな事が起きていたなんて考えるはずも無い。