天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
素子はその後、移動について詳しい話を聞かされた。
仕事の引き継ぎのため、週一は子会社あとは全て本社に行くことになる。
そしてそれは一ヶ月以内で終わらせるように言われた。
まだ素子は入社して一年も経っていないので、引き継ぎと呼べるほど新しい仕事を多くしていたわけでは無いのでそこは問題ない。
だが、何故自分が本社の法務部へ異動になるのか、そこが納得出来ない。
素子が、情報収集の対価ですか?と問うと、小暮は、法務部はかなり忙しいよと笑うだけ。
そしてそのまま法務部に案内され、社員と挨拶を交わした。
弁護士二名に社員十一名。
先日寿退社した女性がいた時は社員十二名でそのうち二名が女性だったらしく、今は紅一点となっていた女性社員、五十嵐が素子を特に歓迎してくれた。
小暮は別の仕事と言うことで五十嵐にバトンタッチされ、法務部の入り口に近い席に素子は案内された。
「今日からこの席が福永さんの席ね。
前の人が退社してから荷物置き場になってたものだから一応掃除しておいたけど、気になったら自分で勝手にしてくれれば良いから」
「はい」
細身のパンツスーツを着た五十嵐は、四十過ぎていると思えないほど若々しい。
少しカールがかったミディアムヘアで、一度離婚歴があることも話すサバサバした性格だ。
素子の会社には素子より年上の女性もそれなりにいたが、上手く馴染めなかった。
少し話すだけで頭の回転の速い女性だと素子はわかり、自分の能力で法務部についていけるか内心心配になってしまう。
ある程度法務部の仕事を説明した五十嵐は、今度は社内の案内ねとざっとフロアを案内した。
素子は前の会社に閉塞感を抱いていたが、ここが明るく感じるのはオフィスの作りのせいなのか、やはり勤めている人の違いなのだろうかと思ってしまう。
リフレッシュルームと書かれた休憩室に案内されればそこは開放感のある広い部屋。
勤務中なのにそれなりの人がいて素子は驚いた。
「ここで打ち合わせしちゃう人達もいるの。
隣にも椅子無しでテーブルが一杯あるでしょ?
そこでしゃべってると他の部署の人が混じってきたりして面白いのよ」
一人黙々と外を見ながら飲み物を飲んでいる社員もいれば、喋っている社員達もいる。
お菓子コーナーや無料のドリンクコーナーに驚いている素子に、五十嵐は笑う。
二人で飲み物をとると、空いているテーブルについた。