天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「はい」
『お疲れさま。
既にレストラン向かっているんだけどホテルの場所わかる?』
「大丈夫です」
『ならホテルロビーで待ってるね』
素子は通話を終えると、まずはスマートフォンのマップで現在地を確認してから歩き出した。
渋谷駅は近年再開発でどんどん変化している。
乗り換えも難しくなるほど地下は迷路、地上も歩道橋を歩きながら混乱したりもする。
そんな素子がなんとか隣には一般道とその上に首都高が走り、坂を上がる途中に目当てのホテルが見えた。
階段とエスカレーターがあり、ホテルはそこから入ることが出来る。
ロビーは広く、大きな生け花の飾られた近くにある椅子に座り、誠は素子の到着を待っていた。
誠は小暮から全て素子に報告したと電話を受けた。
それにより素子はどう思うのか。
きっと彼女なら自分に直接会って話をしたいと思うはず。
そして向こうから素子が歩いてきているのを見て、誠は内心ホッとした。
だがここから。
誠は席を立って素子の元に行く。
「お疲れさま。
レストランはこちらで既に予約してるんだ、良いかな」
「はい」
素子の表情は硬い。
誠は促してエレベーターに乗ると40階のボタンを押した。
二人が来たフレンチレストラン。
スタッフに中へ案内されれば一面に広がる窓からはまだ明るい渋谷の街並みが一望出来る。
窓際の端の席はビルの角になっているせいで二面が窓になっていてその席に案内され、一番景色のよく見える方に誠は素子を座らせた。
椅子の脚や背面は薄茶の優しげな風合いの木で出来ており、座面と背中には焦げ茶のクッション。
内装は木をメインにしたような温かな造りでほっとさせるようなデザインになっている。
まだディナータイムスタートから少ししか経っていない割に、既に半分ほど席は埋まっていた。
「コースにしちゃったけど良いかな、もちろんこちらでもつよ。
シャンパンは好き?」
「ありがとうございます。
シャンパンは多分一度しか飲んだことが無いのでなんとも」
「では経験として飲もうよ」
細身のシャンパングラスが置かれスタッフがグラスに注げば、泡が下から沸き上がるように細いカップに広がっていく。
誠はグラスの枝の部分を持ち、素子もそれに続く。
「まずは乾杯」
素子はシャンパンを飲むと口に手を当てた。
その目からは美味しかったというのがわかるほどきらきらとしていて、誠の口元は上がる。
アミューズが運ばれそれをまた素子は食べるのだが、一口大のパイはサクサクで中のチーズがとろりととけた。
そこにシャンパンを飲めば、また味わい深くなって素子は美味しさに感動していた。
そして目の前の誠がにこにこと自分を見ていることに気付き、素子はまるで食べ物にしか目がない女に見られたと思い恥ずかしい。