天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

「ほんと福永さんは美味しそうに食べるなぁ」
「すみません」
「なんで謝るの?
ここは美味しいと以前から思ってて、福永さんを連れて来たら喜ぶだろうなって思ったんだ。
だから喜んでくれてるなら僕は嬉しいよ」

誠はそう言ってシャンパンを飲む。
前菜の色とりどりなムースが運ばれ、それを食べていると誠が顔を上げずに声をかけた。

「小暮から全部聞いたよね。でもほとんど質問されなかったって。
僕から直接聞くつもりだった?」

誠が顔を上げると素子は銀のカトラリーを置き、背筋を真っ直ぐにしてはい、と答えた。

「芝崎さんが私にしていたこと、当時は何故なんだろうと思っていたんです。
だけど謎が解けたというか、納得したというか」
「謝って済む問題じゃ無いのはわかってる。
君がパワハラで苦しんでいるのにこちらは結局野放しにしていた訳だから」
「法律を少しはやっていた身としては、証拠を固める重要さは理解しています。
伝聞などでは無く、芝崎さん自ら情報を集めればその証拠能力も上がるでしょうし。
芝崎さんは仕事として馬場課長のパワハラの追求をされ、そのおかげで私は課長のパワハラから逃れることが出来ました。
ありがとうございます」

深く頭を下げた素子を見て誠の膝に置いてある拳が強く握られた。

「君が怪我した件もその場にいた社員達から顛末を聞いてる。
須賀さんは最初嘘を言っていたけど、自分が流石に不利になると分かったら手のひらを返して洗いざらい馬場に指示されたことを話してくれた。
それと小暮から、馬場を暴行罪に問えるのにそれを断ったとも聞いたけど」
「他の社員達が話して本社も分かってくれたのならもう良いです。
もし暴行罪なんて問えば、マスコミが取り上げる可能性もありますよね。
そうすれば会社に影響が出る。
当然馬場課長がしたことを許したわけではありません。
会社が野放しにしてきたことも不満はあります。
反面あんな人の為に会社が巻き込まれて影響を及ぼされるのも嫌ですし、本社に移動になるのにきっと知らない人も私が告発したことで迷惑を被ったと思われるのも。
それにあの人は解雇されるんです、私はこれ以上事を荒立てる気はありません」
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