天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

彼女のこの冷静さ。
きっと頭と感情を切り離し、冷静に判断しているからこそ。
だがそれは素子が自分の心を無理矢理納得させ我慢していることも、誠は次第に理解した。

「僕は福永さんを凄く強い人だと思っていたんだ。
だけど、話しているうちに思った。
必死に自分を律して我慢しているからだって。
そんな当たり前の事も、僕は君と話す前は想像がつかなかった。
よく人の気持ちが分からない人だなんて言われるけど、本当にその通りで恥ずかしいばかりだ」

情けないね、と自虐的に笑う誠に素子は、

「私だって人の心なんてわかりません。
むしろわかっていると思っている方が、本当は分かってなかったりするものです。
私は芝崎さんに救われました。
あの独りぼっちの会社で、貴方が気遣ってくれたことは私にとって支えになりました。
それが証拠を集めるためだったとしても、私は嫌だなんて思っていません。
弁護士だから、芝崎さんだから出来たことです」

嘘偽り無い気持ち。
本当に誠のことを感謝して伝えた。
だが一つだけ伝えていないことがある。
それは、弁護士の貴方が羨ましい、ということ。
自分が弁護士になっていれば、こんな目に遭わずにそれこそ誰かをこうやって助けることが出来た。
それが羨ましくて、悔しかった。

誠は素子の気持ちに嬉しくもあり罪悪感が増していく。
もっと早くに助けられなかったのか、ある程度で進めることだって出来なかったのか。
彼女が馬場により怪我を負ったと聞いた時、血の気が引いた。
そしてただ彼女の元に行きたい一心で、やってはいけない彼女の個人情報を権限を使って調べたあげく家まで押しかけ、そして彼女の腕に巻かれた白い包帯を見て今度は頭に血が上った。
どれだけ自分が愚かだったのか、自分に腹を立てた。
そこで完全に自覚してしまった、自分の彼女に対する気持ちを。
きっと知られれば嫌われる、軽蔑されると思った。
なのに彼女はこうやって向かい合ってくれる。
それなら。

「ありがとう。
でもそれじゃ僕自身、自分の気持ちがすまないんだ」
「本社法務部への異動は芝崎さんの推薦だと聞きました。
そこまでしていただいて十分すぎるほどです。
むしろ今後推薦した芝崎さんの顔に泥を塗るようなことをしないよう精進します」
「誤解しているけど、今回の件のお詫びだけで推薦したわけじゃ無いよ?」

どういうことかと素子は誠を見つめた。
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