天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
素子は仕事を終え、定時過ぎに会社を出る。
馬場がいたときもそうだが、皆は素子と会話しないようにかそそくさと帰っていった。
お昼は休憩室で買ってきたお弁当を食べていると、誠を狙っていた女性社員達に睨まれ、こちらもわかりやすいなと素子は苦笑いする。
もうここにはそんなに来ないし、素子自身も気にせずに過ごせた。
手にはロッカーなどにある私物を詰めた紙袋。
あと一回で荷物は全て持ち帰られるだろう。
スマートフォンを確認すると案の定誠からメッセージが来ていた。
会社での様子を心配する内容に、素子は自然と表情が和らぐ。
何も問題ありませんでしたと返せば、すぐに、本当に?という返信。
どうやら信用されていないようだ。
すると着信を知らせる画面になり、それは誠から。
素子が通話ボタンを押し、スマートフォンを耳に当てる。
『今良いかな?』
「大丈夫です、ちょうど会社を出たところで」
『本当に嫌がらせとかなかった?』
「ありませんでした。
みな課長と私がいなくなるのを心待ちにしていると思いますよ」
『あー、そんな感じか』
誠はそれだけで素子が今日味わったであろう状況を推測できた。
「明日からそちらに伺います。
何か勉強しておくことは無いでしょうか」
『特にないよ。
いや、あるな。
そちらのご実家に行けるの週末時間作れるから連絡してもらえる?』
「お気遣いだけ頂いておきます」
誠は通話の切れたスマートフォンを見るとくるりと回す。
法務部でも席はゆったり作ってあり、誠と小暮の席は扱う内容上磨りガラスのようなパーティションで区切られている。
「仕事しろって」
小暮が誠の席に顔を出し届いた郵便を渡す。
はいはいと言いながら郵便物を受け取って確認し、小暮と声をかけた。
「小暮さん、だろうが」
「これ、何だよ」
「見ての通り見合い相手の写真と釣書だな」
仕事の大きな封筒に紛れていたのは、見合いの為のものだった。
封筒に何も書かれておらず、異様に堅いものが入っていることで誠は経験則からそれを弾いた。