天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「中身くらい見ればどうだ?」
「社長からか」
「お前が見もしないから郵便物に混ぜてくれって命令がね。
いい加減逃げ回らずに見合いの一つくらいしろよ。
運命の相手がそこにいるかもしれないだろ?」
「それが、先日『申込み』したとこだよ」
「何に?」
「彼女に」
小暮はぽかんとしたが、ははーんと腕を組む。
まさか誠が素子に告白をしているとは思ってもいなかった。
あんな証拠資料の駒になって貰った以上、もっと時間を掛けるかと思っていたのに。
「やっぱり狙ってたんじゃ無いか」
「自分でもその変、わかんないんだけどな」
「で、『申込み』して相手から『承諾』は得られそうなのか?」
面白がってみている小暮に、誠は椅子の背もたれにもたれかかる。
「『黙示の意思表示』って事で進行中」
「お前、訴えられたら負けるぞ」
「負けないようにすれば良いんだろ。
とりあえずは相手の実家へ挨拶しないといけないし。
婚約者としては当然のことだが」
「待て待て待て。
お前、どこまで話が飛んでるんだ?!」
流石に驚いた小暮が手を動かしながら誠に迫ると、楽しそうに誠は笑った。
その様子に小暮はどこまで本気なのかわからない。
「そうならせめてお兄様にきちんと話し通しとけ。
それと、彼女が今度本社に来るぞ?」
「彼女?」
「お前の元カノ」
それには誠も眉間に皺を寄せた。
「まだ彼女、お前を諦め切れてないのに、福永さんが来たら絶対目の敵にするぞ?
やっと福永さんが安心して仕事出来る場所になるはずが、お前がトラブルの原因を引き起こしかねないんだからな」
「何度断っても迫ってくるあのガッツは学びたいものもあるけどな」
「悠長なこと言ってないでちゃんとしてくれ。
こちらに火の粉が飛び散られたらたまらん」
「ご忠告感謝します」
小暮は呆れたように肩をすくめ、離れていった。
誠は見合いの話は蹴れば済むと思っていたが、元カノの件に関してどうすべきか考え出した。