天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

素子はじっと誠が見ていることにようやく気付き、自分の服装や化粧が変なのかと心配になった。
そんな素子の気持ちを見通すように誠は軽く笑って自分のシートベルトに指を指した。

「そっちもシートベルト、つけてくれる?」
「すみません!」

乗り慣れないせいですっかり忘れていた素子が急いで上半身をねじってシートベルトを持つ。
だがロックがかかったようにベルトが伸びないので、素子は何度も引っ張りつつ待たせていることに焦ってしまう。

「焦らなくて良いよ。
時々引っかかったようになるんだよね」

素子の前に誠が覆い被さるように手を伸ばす。
あんなに動かなかったベルトはするりと伸びて、そのまま誠はそのベルトを持ってカチャリと装着させた。
顔をかがめた素子に誠が顔を上げ、あまりの近さに素子は後ろに飛び退く。
誠は流石に耐えきれなくなってお腹を抱えて笑い出した。

「緊張しすぎ!」

顔を赤くして言葉も出ない素子に、誠は頭を軽く撫でる。
誠の突然の行動にビクリと素子は身体を強ばらせたが嫌な気持ちは一切無い。
ゆっくり撫でられて、何故か素子の肩の力が抜けた。
誠に抱きしめられたときも、手を握られたときも、びっくりするし恥ずかしいのに不思議と落ち着く。
素子は甘やかされた経験がほとんど無い。
だから慣れないことにどうしても戸惑ってしまう。
相手がそういうことに慣れていて深い意味が無いとわかっていても意識せずにはいられない。

落ち着いた素子を見て、誠は口元を緩める。
いつも気を張っている女性が、自分の行為で安心する、それは嬉しい。

(まぁ、男として意識して貰わないと困るけど逃げちゃいそうだな)

ゆっくり見ている気は無い。
悪いと思いながらも実地で慣れていって貰おう。

「じゃ、行こうか」
「はい。よろしくお願いします」

誠がそんなことを考えているとも知らず、素子は頭を下げた。

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