天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

高速を降りて数㎞走ると素子の実家近くに来た。
近くのコインパーキングに停め、素子が降りるのを待たせて誠がドアを開けた。

「すみません。自分で降りれますよ」
「ドアが重いからね、結構女性にはきついだろうから」

それは助手席に乗った女性達の意見ですか。
そんな事が頭を過ったが言える立場では無い。
彼が交際だの婚約者だのと言ったのは、パワハラの件で負い目を感じているから。
だから期待してはいけない、素子はそう思う。

素子の家は一軒家。
分譲住宅として開発された一帯で、等間隔に並ぶ家の一つ。
玄関前の小さな花壇は、素子の母親が植えた花が綺麗に咲いていた。

「間違いなく母は不躾なことを言うと思います。
父はあまり言うことは無いと思いますが。
ですので早々に切り上げたいと思っているので」

素子は本当に気が重い。
久しぶりに戻る実家は安らげる場所では無い。
何より誠に不愉快な思いをこれからさせるとなればなおさらだ。
誠はまた素子の頭を軽く撫でた。

「弁護士の仕事舐めて貰っちゃ困るな。
俺は来たくてきてるんだよ。
婚約者としてはご両親に早く挨拶したいしね」
「その設定はいつまで続くんですか?」
「そりゃ結婚するまででしょ?」

にこりと笑った誠に素子はあっけにとられたが、何だか笑いがこみ上げた。
もし、彼と結婚できたらきっと幸せで笑顔のある家庭が気づけるのかも知れない。
それは私では無い事を、素子は当然と思いつつも心に棘が刺さったようだった。

「さ、時間だよ」

誠はインターホンを押した。
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