天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~


久しぶりに会った素子の母親は、気合いを入れて二人を待っていた。
手料理の山が出され、素子は食事はいらないと言っていたのに何故と憤る。
妹の亜未はいないはずだったが、やじうまで実家に戻っていた。
父親は無言でリビングにいて、長方形のテーブルを五人で座って囲む。

「好みがわからなくて洋食和食どちらも作ってみたのだけど」
「ありがとうございます、いただきます」

素子の母が誠に言うと、母親は皿一杯に料理を置いて誠に手渡した。
誠もそれを受け取り食べ始め、どれも美味しいですと答えれば母親はどれだけ手がかかったか話し出した。

「芝崎さんが困るからそんなに食べさせないで」
「良いじゃ無い、男性は食べるものよ」
「無理しないで下さいね」
「大丈夫だよ」

素子の心配に誠は優しく答えた。

亜未は素子が連れて来た男に驚いていた。
整えられた焦げ茶色の髪、男というのに長いまつげの目元は色気が醸し出るようだ。
スリーピースなど亜未の周囲で着ている人がいないが、それでも生地の艶やかさから上質なものだとわかる。
てっきり堅物の男を連れてくるのかと思いきや、王子様の服装を着ても違和感が無いほどの色男。
かなりモテて遊んでいたことを想像させる誠は、姉の好みとは違うようなと内心首をかしげる。
だが弁護士で渋谷に本社のある大きな会社にいる、それもルックスも良ければ母親の機嫌が良いのは当然だろうと思った。

「渋谷のあんな大きなビルに会社があるのね。
素子もそこに勤めているんでしょ?」
「そうだね」

素子は食事にあまり口をつけず、テンションの高い母とあまり目も合わさない。

「良かったわね。
芝崎さん、この子弁護士になりたくて女なのに司法試験なんて受けてやはり落ちて。
だから弁護士さんの側にいられるならこの子も満足じゃ無いかと。
それに収入もおありなんでしょう?
そういう方なら奥さんは専業主婦がいいんでしょうし」
「お母さん!」

素子は先ほどから続く母親の不躾な言葉に流石に声を荒らげた。
誠は素子の手に自分の手を乗せる。
申し訳なさそうに誠を見た素子を安心させるように、

「収入の件でしたらそれなりにとしか。
確かに家族が出来れば養うくらいの事は出来ると思います」

誠の言葉にパッと母親の顔が明るくなる。
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