天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「素子」
ずっと黙っていた父親が素子に声をかけ、素子は自然と身構えた。
「彼のどこが良いんだ?」
「そういうのは本人がいる前でいうことじゃ」
「そうだね、僕も聞きたいな」
誠が笑顔で後押しするため、素子は視線を漂わせた後父親をしっかり見つめる。
「言ってなかったけど、あの会社で私、パワハラを受けていたの」
母親が、えっ?!と声を出し、父親の眉もピクリと動く。
「かなり酷かった。
だけどお父さんが口をきいてくれた会社だし、簡単に辞めることもできなかった」
「そんなの、言ってくれれば」
母親が驚いて声を挟む。
だが素子の表情は落ち着いていた。
「言ってどうなるの?
これは所詮会社内のことで親が出てくる事じゃ無いし、私はその原因になった行為を後悔してない。
酷い状態だったのに会社の人達は皆見て見ぬ振りをしてた。
そんな時、芝崎さんが助けてくれたの。
色々な仕事を抱えて忙しいのに、私を助けるために動いてくれた。
本社法務部に移動できたのも芝崎さんの口添えがあったから。
弁護士だからじゃ無い、芝崎さんの行動で私は救ってもらった。
とても尊敬している人だよ」
素子が笑うと、そんな娘を見た父親と母親はまた驚く。
娘のこんな笑顔を見たのはいつぶりだろうか。
そんなにも想う相手と出会えたことを嬉しく思わないはずが無い。
「・・・・・・そうだったのか。
芝崎さん、私からも娘を助けていただきありがとうございます」
父親が頭を下げると、誠は慌てて声をかける。
「僕はあくまで仕事をしていたんです。
ですが素子さんのひたむきさ、正義感、そして時折見せる可愛らしい表情にいつしか惹かれるようになりました。
こんなに頑張っている彼女を、もっと甘やかしたいのが僕の目標でして」
ひゅー!と亜未が冷やかしの声を出し、素子が亜未!と顔を赤くして注意した。
「芝崎さん」
父親の真剣な声を聞き、誠がそちらを向いて表情を引き締める。
「娘をどうぞお願いします」
頭を下げた父の姿に素子は目を見開く。
それと同時に胸が熱くなる。
誠は頭を上げて下さいというと、素子の両親を交互に見た後、
「こんな素敵なお嬢さんに出逢うことが出来て僕は幸せです。
素子さんを幸せにする事とお約束します」
深く頭を下げた誠に、素子も一緒になって頭を下げた。
そして同時に顔を上げ二人は見つめ合い微笑む。
素子にはこれが現実だったならと心の隅で思っていた。