天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~


数時間の滞在で実家を出るとき、玄関に両親と妹が見送りに来た。

「これ、家で食べなさい。
日持ちするもの詰めたから」

渡された大きな紙袋はずしりと重く、中にはいくつもの保存容器に惣菜が詰められていた。

「芝崎さん、娘をお願いします。
不器用ですが、本当に優しい娘なので」

素子の母がそう言って初めて頭を下げた。
その姿に言葉に素子の胸は一杯になる。
こんな母を見た記憶も、褒めてくれた記憶も素子には無かった。

「はいもちろんです。
またご連絡します。
長々と失礼しました」

泣きそうになっているのを隠すように俯いている素子の背に手を当て、誠は再度挨拶して家を出た。
素子の持っていた紙袋を誠が持ち、コインパーキングまで無言で歩く。
助手席のドアを開け素子を座らせると、誠は身体をかがめて素子を抱きしめた。

「君はご家族に愛されているね」

誠のその一言で、耐えていた素子の涙は止めどなく流れてきた。
止めようにもどうしようも無いほどに溢れてきてしまう。
スーツを濡らさないよう誠の腕から逃れようとしたけれどその力は強く、片手で素子の頭を撫でる。

「服が濡れることなんて気にしなくていい。
俺が君を抱きしめたいんだ」

素子の身体が小刻みに震え、誠の服を掴むと押し殺したような泣き声が聞こえた。
誠はその姿と声を自分だけのものにするかのように、素子を抱きしめていた。


帰りの車は素子があまり話さず、ラジオを流しながら時折誠が話しかける形で素子のマンション前に着いた。

「大丈夫?部屋まで送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。
せっかく家まで来て演技してくれたのに私泣いちゃうし、本当に申し訳ないです」
「演技?」
「だって、婚約者というのは母の電話の流れで言ったことですし、そもそもお付き合いも」

誠は素子の言葉を聞いて顔に手を当てた。
強引だったのは自覚している。
だけれどここまで最初の時点から否定されると、もっと言葉にしていなかったのが悪かったのかわからない。

誠はシートベルトを外し後部座席のシートに手を伸ばすと紙袋を取った。
そしてその中から小さな箱を取り出す。

「開けて見て」

リボンの掛けられた正方形の箱。
箱を開け、その中の黒いケースがウィング状に開き、飛び込んできたのは光り輝くブリリアントカットのダイヤリング。
一粒だけでも大きいが、アーム部分にもメレダイヤが敷き詰められている。
暗い車内なのに、驚くほどに輝くそのダイヤの入った箱にはハイジュエリーブランドのロゴ。
素子は驚き顔を上げると、箱を持つ素子の手を誠は包み込んだ。

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