天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「ねぇ、はいって言ってよ。
そうしないともっと深いキスをするけど」
ギョッとした素子が下がりそうになるのを、誠の大きな手が今度が頬に、そして顎に降りる。
「返事は?」
誠は楽しそうに聞いてきて、素子は自分の答える言葉を分かった上で言っているように思えた。
「芝崎さんって意地悪なんですね」
「名字で呼んだら罰ゲーム、忘れてないよね?
かなりの数が既に溜まってるんだけど。
で、素子、素直に返事をしてよ」
意地悪なようで最後は少し不安げな顔をした誠に愛しさがわく。
思っていた、こんな人の側にいられたらと。
素子は誠の目を見つめ、
「はい」
その言葉に誠は素子を抱きしめた。
素子は指輪の入った箱を落ちないよう抱きしめたままで、あの、指輪が!と抱きしめられることと落ちることに焦っていた。
そんな素子が面白くて誠は笑いながらその箱を受け取る。
そして指輪を取ると、素子の左指にゆっくりとつけた。
「凄い、ぴったり」
「良かった、それくらいかなって思ったのが当たった。
俺の愛情の深さ故だね」
「何ですか、それ」
お互い顔を見合わせ笑う。
そして誠はダイヤのリングに触れながら、
「ここまでは強引にしちゃったけど、籍を入れるのは素子の気持ちを待つよ。
まだ仕事で精一杯だろうし。
だけど一緒に住む場所とかは早々に決めたいな」
素子がこくりと頷くと、誠は困ったような顔をした。
「なるほど、素子が押しに弱いのはわかった。
その指輪で嘘じゃ無いって事をわかってね」
「はい」
誠は素子が降りる用意を済ませると、再度不意打ちでキスをした。
暗い車内でもわかるほど、素子の顔は赤い。
「またね素子」
助手席のドアを開け、素子は眉を下げながら降りる。
誠は素子の困惑ぶりが手に取るように分かるがそれすら愛おしい。
「すみません、その一杯一杯で」
「そうだろうね」
クスッと笑うと、車から降りた素子は誠を見上げる。
「でも、とても嬉しいです。
お休みなさい、誠さん」
素子はぺこりとお辞儀をして、誠を見ること無く急ぎ足でマンションに入っていった。
誠はその姿を見送りながら口に手を当てる。
「そういう不意打ちはずるいだろ」
きっと顔を赤くして部屋に入っただろう素子を思い口元が緩みながら、誠は車に乗り込んだ。