天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
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誠が出張から帰ってくる日、誠はサプライズを兼ねて土産を持ち素子の家に向かっていた。
夜の九時過ぎ、既に会社を出ているのは他の社員に聞いていたので家にいるだろう。
ずっとまともに会えておらず誠は素子がずっと頑張っていただろうことと、妙な心配を掛けていた分早く顔が見たかった。
ロビーのインターホンを鳴らせば、はい、という声が聞こえ誠は入れてと声をかける。
中に入り、素子の部屋のドアが開いた。
「突然ごめん。
素子の顔が見たくて。
これ土産。有名な和菓子なんだって」
笑顔で誠が紙袋を渡すが素子は目を合わさずに礼を言った。
「少しだけ上がってもいい?」
素子は少し躊躇したが、どうぞ、と中に促した。
部屋の真ん中にある正方形の小さな机には、企業法務の本とペンが置いてある。
それに気付き、誠は素子の真面目さにやはり心配が上回った。
「飲み物、今の時間ならコーヒーよりノンカフェインの紅茶とかの方が良いですか?」
小さなキッチンに向かった素子を後ろから誠は抱きしめた。
「勉強してたんだ」
「はい」
「なんか、まだ敬語だし、はいって返事はちょっと寂しいな。
婚約者なんだからもっと」
素子は自分を包み込む腕を、ぐっと離す。
「素子?」
こういうスキンシップにまだ慣れないのかと思った誠が素子を覗き込めば、その顔は今にも泣きそうなのを堪えている顔だった。
「どうした?
また何かあった?」
俯いていた素子は溜まらず、
「お見合いに困っていたって本当ですか?
加奈さんがその相手だったというのも」
誠は素子の真剣な表情に驚きながら、加奈が何かを素子に言ったことはすぐにわかった。
そもそも加奈は誠と分かれた時点でその後の候補に挙がっていない。
だけれどずっと誠にアプローチをしてきて、誠は加奈の行動にうんざりしていた。
自分と結婚すれば会社の役に立つ、貴方にとってもプラスになる、私にとっても、と加奈が言う度に、誠の心は離れていった。
最初は自分の親など関係無く付き合っていると思った相手が、実はそこを見込んでいたと知ったときの悔しさは計り知れない。
周りが見ているのは、自分の親の立場、そして今なら自分の肩書き。
うんざりして見合いなど面倒だと思っていた矢先に素子に出逢った。
だが加奈のことだ、親のことは話しただろう。
どう思っているのだろうか。
それが気にかかる。
「まずは順序立てて説明したい。
横に座って」
誠は素子の手を引いてベッドとテーブルの間に座ると横に座ろうとした素子を引っ張り、自分の脚の真ん中に座らせ後ろから抱きしめた。