天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「あの、これじゃ」
「良いでしょ、俺は素子が不足してるんだからこれくらい。
まずは重要な点を話す。
俺は彼女と見合いの話自体そもそも無い。
別れた後しばらくしてまたよりを戻したいと言い出したけど断ってて、いい加減しつこいし面倒だから着信拒否してた」
そこまでしていたのかと素子は驚いた。
とてもそんな事をするような人には思えなかったからだ。
「それで今回の広告出演で直接また復縁を言い出したから、婚約者がいるって断った。
聞いたんでしょ?
俺のこの会社での関係」
素子はこくりと頷く。
「父親が社長、兄は副社長。
兄は子供の頃から会社を継ぐ存在として教育を受け、俺はその補佐をするように父親から言われた。
まぁ多感な時期なんで反発したけど、それなりの大学に入った。
父親は学歴として満足するところだから学費を払ってくれた。
でもロースクールは想定外だったんだよ、早く会社で学んで欲しいのに社会にでない方を選んだんだから。
逃げだの何だのなじられたっけ。
でも兄は応援してくれた。
何とか司法試験に合格できたのも兄のおかげだ。
だから将来この会社を背負う兄の支えになろうと、自分の意思で戻ってきたんだ」
誠としては会社のことを兄に押しつけ逃げたことは理解していた。
その負い目があるのに、純粋に自分を応援してくれる兄の器の大きさにやはり兄が会社をまとめる存在だと実感し、そして支えたいと思えたからこそまだ嫌な父親のいるこの会社に勤めることにした。
「でも父親はそれだけじゃ満足しなくてね、早く結婚しろと言い出して。
もちろん兄にはもっとうるさかった。
だけど兄には以前話したようにずっと想う相手がいて、それだけは譲らなかったんだよ。
それ以上言うなら会社は継がないとまで言い切った兄と、それを応援する母親に父親は折れた。
で、その矛先はこっちに来たわけだ。
そんな兄を見てるから、自分もそういう気持ちで結婚を考えたいと思いつつもどこか冷めていてね。
自分には立場や肩書きでしか見ない相手ばかりだったから」
素子は聞きながら誠の苦しさを知ると共に、一つ意見を言いたくなった。
上半身をひねり、誠の顔を見る。