天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「駄目だよ、今、顔なんて見せられない。
俺は頑張っている素子を甘やかしたいのに、結局甘やかして貰っているのは俺の方だ」
「そんなこと無いです。
いつも私を守ってくれているし」
「本当はもっと時間を作って二人だけで会いたい。
素子が許してくれるならもっと素子に触れたい」

熱を帯びた声が素子の耳の側で囁かれた。
その声が素子の身体をゾクリとさせる。

「がっついたらきっと素子に逃げられそうで、これでも俺は我慢してるんだよ」
「すみません・・・・・・」

何となく意味の分かった素子は、恥ずかしそうに謝った。
素子の顔に大きな手が伸びて、誠の方を向かされる。

「まだ今は素子を不安にさせているから、そこを消すまで我慢するよ。
素子の気持ちだってあるしね。
籍を入れるのを待つなんて格好をつけたけど、一分一秒でも早く入れたいよ。
素子の実家に行ったとき、本気を見せようと自分の必要欄には全て記入済みの婚姻届を持参していたし」
「えっ?!そうだったんですか?!」

思い切り驚いた素子に、誠は口元を緩ませる。

「そうだよ。
証人は素子のご両親にして貰って、そのまま役所に行っても良いと思ってた。
きちんとその婚姻届は家にあるよ。
素子がイエスと言ってくれるなら、すぐにでも届出したい」

素子は驚き、そしてそこまで思われていたことをまた実感した。
あの大きなダイヤのリングでも本気なのはわかったが、そうまで思っていてくれることは今まで抱えていた不安が消し去るほどに大きい。

「嬉しいです」
「どうする?
今から俺の家に行ってそのまま役所に行く?
夜間受付で味気ないけど」

今から?!と戸惑った素子に誠は笑い、唇に自分の唇を合わせた。
離れれば、不意打ちに顔を赤くしている素子がまた可愛い。

「大丈夫、まずは俺の方でけりをつけないと。
信じて待っててくれる?」
「・・・・・・はい」

誠は目を細め、まだキスの慣れていない婚約者の唇に、自分の熱意を伝えるためにキスを落とした。

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