天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
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既に年末近くなり、会社は忙しい。
誠と素子は何とか時間を作って転居先を決めた。
新居から会社まで三十分ほど。
素子の今までの通勤時間の半分だ。
間取りは2LDKだが、平米数はそれなりにある。
未だ一線も越えていないのに絶対にベッドは一つと譲らない誠に素子が折れた。
転居は年明け。
その前にはクリスマスなど恋人して初めて迎えるイベントもある。
だが目下会社が忙しいのは新製品の発表会の準備だった。
Grassコーポレーションの事業は幅広く、そのうちの一つ、化粧品部門で新製品の発表会が行われる。
その広告塔が『加奈』だ。
会社の販売部などには加奈の顔のアップと新しいアイシャドウなどの写ったポスターが何枚も貼られている。
限定カラーの一つは加奈がイメージして出来た深いラメ入りのパープル。
よって発表会には加奈がメインとして登場するので、それなりにマスコミも来る。
素子達は直接関係無いものの、巻き添えのように仕事の進行が滞るという影響は来ていた。
明日、発表会という時に誠は加奈に呼び出された。
その事は既に素子に連絡し、どこで何時に会うかも伝えてある。
そうしなければ素子が平静を装っていても内心不安がっているのはわかっているし、伝えない方がより不安にさせるのを学んだ。
素子からは、いってらっしゃいとだけ返信が来て、誠は苦笑いしながら約束の場所に行った。
そこは明日発表会の行われる皇居すぐ側にあるホテルのレストラン。
最初は加奈から夜というのにホテルの部屋を指定されたが、それならば行かないと誠が拒否すれば、レストランの個室を指定された。
あくまで仕事として行くため、誠はしっかりスーツ姿。
白がメインとしたデザインのフレンチレストランで、スタッフに案内されるとそこには既に加奈が待っていた。
「遅い」
「約束の五分前だよ」
既に一人で赤ワインを飲んでいる加奈が入ってきた誠に不満を言う。
誠がテーブルを挟み着席すると、誠も赤ワインのグラスを頼んだ。
「答えは?」
加奈がスタッフが部屋から出て行くとすぐに聞いてきた。
「何度も言うようにノー」
「わかんないな、あの人には単に情が湧いてるのを愛と勘違いしているんじゃ無いの?」
「僕は君が納得するまで説明する義務は無い。
今日来たのは、これで君と会うのは最後にするためだ」
タイミングを見計らったようにドアがノックされる。
ワイングラスにワインを注いでいるとすぐにスタッフ達が前菜を用意し説明をする。
二人は笑顔で礼を言い、そして二人きりになると加奈がムッとしてワインを飲む。