天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「よく彼女は元カノと二人きりで会うのを許したわね」
「君との関係や家のことも全て話したし、そもそも彼女は今日会うことも話したけれど許可なんて出してないよ。
むしろそれくらい妬いてくれると嬉しいんだけど」
「なによ、私との密会ですら自分たちの刺激に使おうって言うの?」
「さぁ?」
飄々と前菜を口にしている誠に加奈は苛立った。
自分の横に立っても見劣りしないルックス。
立場も肩書きもあって、加奈は誠と付き合っていた時わざとマスコミに撮られようとした。
だがすぐに気付いた誠から忙しいからと別れを切り出され、加奈もプライドが許さなかったために自分も忙しくて別れたかったなどと言ってしまった。
だけれど彼は早々結婚することは無いと思っていれば耳にした婚約の話。
広告のオファーは、連絡が取れなくなった誠に会える口実にもなるので受けた。
そしてどうせガセか政略結婚かと思えば、その相手は自分より年上の平凡な女。
そんな相手と本人はすぐにでも結婚したいなどと言う。
別れて数年、誰と付き合っても結局忘れられないのはこの人だけ。
加奈は自分に興味を示さない誠にこういうしかない。
「明日は新製品の発表会ね」
「そうだね」
「私、行くのやめようかしら」
誠の視線が上を向き、加奈を捉える。
「どういう意味かな」
「私が来ない、それも会社の対応が悪くてキャンセルした、なんてなれば問題よね」
「で、何が言いたい?」
急に低くなった誠の声に怯みそうになりながらも加奈は続ける。
「そうなりたくなければ、私とその場で婚約を発表して」
胸に手を当て言い切った加奈を誠は見ていたが、ふ、と軽く笑った。
「何故笑うの?!」
「いや、君は自分の仕事をそういう風に利用するんだなと」
誠はフォークを置き、頬杖をつく。
加奈を見るその目は冷たさしか感じない。
「プロとして仕事をする気が無いなら来なくて結構。
君の替えはあるけど、素子の替えは無いんだ。
で、君は明日、仕事をキャンセルするのかな?
するなら兄に電話して早めに他の方法を採るよ」
そういうとスマートフォンを誠はスーツのポケットから取り出した。
ゾッとするほど冷たい態度に加奈は唇を震わせ、それに耐えるように目を瞑った。
そして大きく息を吐くと、両手を挙げて降参というポーズを取った。