天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
そんな素子を見てにこりと笑うと、フロアから誠は出て行った。
それを見て素子は思い切りため息をつく。
ため息の数だけ幸せが逃げるなんて言うけれど、逃げる幸せが無ければ問題ないだろうと素子は思いながら誠の出て行ったドアを見た
誠はルックスも学歴もそして弁護士という資格も持っている。
女性からも引く手あまたと聞き、それに比べて自分はといつも考えてしまう。
総務部に親会社の法務部とを繋ぐ法務チームが立ち上がり法学部卒が選ばれると聞いたとき、もしかして移動になるのではと期待した。
だが移動にはならず、嫌々出た飲み会で馬場たち男性陣が素子をそのチームへ行かせないようにしたとしゃべっているのを聞いて、自分の中でまた何かが崩れていく気持ちになった。
入社したときから素子はパワハラや周囲から阻害されていたわけでは無い。
それはとあることがきっかけ。
だがそれを後悔してはいない。
行動しなければもっと後悔していた、そう思って素子はかぶりを振ると再度キーボードを打ち始めた。
コトリと机の横に物が置かれた音に気付き、驚いて上を向くと、そこには誠が買ってきた物をビニール袋から出しては机の隅にどんどん置いていく。
「これはサンドイッチ。
好き嫌いがわからないから俺のお勧めにしといた。
飲み物はいつも紅茶飲んでいるようだからミルクティー。
あと食後にプリンね。新発売らしいよ、これ」
糖分は大事だよと言いながら隣の席の椅子を引っ張って、当然のように誠は座った。
元々背の高い方だが、座って伸びる足がその座面の高さでは足りないといわんばかだ。
素子は机に並べられたものを見てから隣にいる誠の顔を見る。
先ほどまで見上げていた視線はさほど変わらない位置になった。
素子はあっけにとられていたが、ハッと気づいて足下に置いてある鞄から財布を出す。
「すみません、おいくらでしたか」
「まさかお金をもらうわけ無いでしょ。
君は僕に売買契約の代理権を授与した訳では無い。
ということはそこに当然契約はないからそもそも代金は発生しない。
福永さんならこの意味、わかるよね?」
またにこりと人の良さそうな綺麗な笑顔を浮かべた誠に、素子の口元がぎゅっと結ばれた。
先ほどからわざとらしいほどに法律知識を混ぜてくる誠。
そんなのはわかってい当然だよな、一応ロースクール卒業はしたのだし、と嫌みを言われているようで素子は腹立たしい。