天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「誠ってそこまで言える人だったのね」
誠はスマートフォンをテーブルに置いて口角を上げる。
加奈が本気では無い事をわかっていても、今は優先する相手がいる。
それを知らしめるのにはちょうど良い。
仕事だろうと大抵のことは何とかなるが、彼女だけは唯一無二。
そんなの、比べるまでも無い。
「駄目だってわかってたわよ。
だけど私だってずっと思っていたんだもの、最後くらい意地悪しても良いじゃ無い」
「わかっていたならそれで終わらせて欲しかったな。
仕事を持ち出すのはマイナスにしかならないよ」
「はいはい、私が悪かったです」
加奈は最後のあがきをここまで拒絶されため息しか出ない。
もしかして少しは動揺しないかと思っていたが、簡単にこちらを切り捨てる選択をする。
(この人の本性、あの抜けた人はわかってるのかしら)
「きっと誠のこういう酷い側面、まだ彼女は知らないんでしょうね」
「当然だろう?」
胸を張った誠に、加奈は吹きだした。
あぁもう完敗だ。
ここまで突き放してもらえたら、いっそ清々しい。
「最後の晩餐じゃ無いけど、せめてこの食事くらい最後まで付き合ってよ」
「もちろん。我が会社の広告塔への接待だからね」
「ここの食事代経費で落とす気?」
「僕が払うに決まっているだろう?」
「じゃ、気兼ねなく高いワイン頼もう」
そういってワインリストを意気揚々と開いた加奈に、誠はご自由にと笑った。