天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~

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「私が、ですか?」

新製品の発表会当日、素子は会社に行くと小暮からブースに呼ばれ急な仕事を伝えられた。
それは十時から行われるその発表会へ途中から素子も行くよう言われたのだ。

「芝崎は既に会場に居るから合流してね」
「あの、私は何をすれば良いのでしょうか」
「そうだなぁ、雰囲気慣れ?」

雰囲気慣れとは?と困惑する素子に、小暮は笑う。

「芝崎のやつ、本来行かなくても良いのに無理矢理行かされているんだ。
きっとうんざりしているだろうから差し入れしてやろうと思ってね」
「差し入れは何を持っていけばよろしいですか?」

小暮は素子を指さした。

「芝崎への一番の栄養剤は婚約者の君だから」
「えっ」
「こういう発表会を見ること自体は経験として良いのは本当。
それに、彼女のこと、気になってるんでしょ?」

素子は鋭い指摘に視線を逸らす。
昨日も加奈と会うことは事前に報告があったし、その後も帰宅して話を終えたことも連絡があった。
今朝も直接会場に行くけれど、夜は食事をしようとやりとりをしていた。
だけれど不安はどうしてもよぎる。
それを見透かされ素子は小暮の目を見られない。
沈んだような素子を見て小暮は笑うと、覚悟も決めておいた方が良いよと送り出され、素子は訳が分からないままホテルのある大手町へと向かった。

歴史あるホテルはつい数年前建て替えられ新しい。
素子は言われた宴会場に向かうと、そのドアの前にはバタバタとスーツ姿の男女が足早に行き来している。
『PRESS』と書かれた黄色の腕章をつけカメラを持った者達もいて、素子は緊張しながら発表会の行われている会場のドアを開けた。

既にメインの発表は終わり、ひな壇には椅子が置かれ加奈や広報などが座りインタビューに答えているところだった。
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