天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
「ところで昨夜、このホテルのレストランで加奈さんが男性と密会していたという目撃情報がありまして」
今までは商品や今後の活動などを聞かれていた加奈に、男性の記者が唐突に質問をした。
ざわめく会場に広報担当者が、
「申し訳ございませんが、あくまで商品に関する質問のみと最初お話しした通りですので」
「男性と密会していたとなれば、御社の商品での販売に影響で兼ねない重要な問題なのでは?」
記者は食い下がらず再度続けると、加奈がマイクを取った。
「ご質問の件ですが、昨夜レストランで弁護士の先生とお会いしていたということは事実です」
広報達は動揺をしないよう落ち着いてその言葉を聞いている。
「その弁護士さんは新しい交際相手ということでしょうか?」
「そちらについては私からお話ししましょう」
袖に控えていた誠がマイクを持ちひな壇に上がった。
焦げ茶に薄い茶色のラインの入ったスリーピース、その胸元には鈍い金色の弁護士バッジがライトに照らされていた。
「モデルの加奈さんより法律相談があるとのことでお話を伺いました」
「それはどういう内容でしょうか」
「守秘義務がありますので一切お答えできません」
笑顔ながらも圧力を記者は感じたが、それでも質問を続ける。
「交際されているのを隠すためではありませんか?
芝崎弁護士は以前加奈さんと交際していたという噂も」
そこで加奈がクスクスと笑い出した。
「先生の仰るとおり、昨日法律相談に乗っていただきました。
それに何か誤解されているようですが先生には婚約者がいらっしゃって、そののろけ話は伺いましたね」
近くに来ていた誠は苦笑いを浮かべる。
記者もどう追求しようか言葉に詰まっていると、
「先生、婚約者の方がいらしてますが放置していてよろしいんですか?
昨日もなかなか忙しくて会えないのだと愚痴をこぼされていましたが」
その加奈の言葉に誠は笑う。
ドア付近で呆然とこちらを見ている、スーツ姿の素子を誠は早くに見つけていた。
「ありがとうございます。
新居の打ち合わせをする為に待ち合わせをしているので失礼しますね」
そう言うと、言葉を失っている記者に誠はにこりと笑うと、近くのスタッフにマイクを渡し後ろで固まっている素子の手を取った。
「じゃぁ行こうか」
ドアを開け、素子の手を取り誠は誰もいないエレベーターに乗り込んだ。