夢のまた夢では 終わらない夢
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その後、神楽さんとの時間はあっという間で、楽しくて温かくてドキドキして、どういう風にお礼を言って帰ってきたのかも全く覚えていないほどにその時間に酔いしれていた。

鏡に映った自分は顔が緩んでいて、しまりがない。

後ろに束ねていた髪を解くと、髪まで私の気持ちみたいにどうしようもなく浮き上がっている。

これって、やばいよね。

本来恋には無頓着で結婚願望もないような私が、もしかして恋に落ちた?

ふわふわした気持ちのまま、十九時を過ぎてもお腹は減らずベッドでゴロゴロしていたら、美咲からの電話が鳴る。

『今日は本当にごめん!』

平謝りの美咲だけど、正直美咲がいなかったからあんな素敵な出会いがあったわけで、微妙な気持ちで「もういいよ」と答える。

『電話の後、すぐに帰ったの?』

「え?いや、まぁ……だからその……」

『何?あのマンションの警備員、すごくうるさいから何か言われたとか?』

「確かににらまれたことはにらまれたけど……」

こういう時、嘘を付ける人間でありたかったと心から思う。

結局、勘のいい美咲に根ほり葉ほり問い詰められ、いよいよ逃げ切れないと悟った。

ため息をつきながら「神楽さん」と口にした瞬間、スマホの向うで「ひゃー!」という美咲の素っ頓狂な声が響く。

『だめよ、だめだめ!』

昔聞いたことのあるフレーズだなと思い苦笑しながらも尋ねる。

「何?美咲も知ってるの?」

『樹こそ知らないの?商社から始まって不動産からレストラン経営からあらゆる分野に跨って日本、いや今や世界の経済界を引っ張っている神楽財閥を!』

神楽財閥?

神楽、神楽さんって、あの神楽財閥の神楽なの??

「あの神楽財閥に所縁がある人ってこと?」

『神楽 亮といえば、神楽財閥の会長の孫にあたる人よ。うちのマンションに住んでるらしいっていうのはちらっと聞いてはいたけど、まさか樹が私よりも早くその神楽一族の一人と面識持つようになるなんてね。っていうか、面識持つなんて恐れ多いくらい雲のまた上の存在だわ』

夢のまた夢どころの騒ぎじゃなかったんだ。

『その神楽亮っていう人は、神楽ホールディングスの常務で、未だにビジネスマンとして海外フード、主に酒類やスパイスのマーケティングをしていて彼が手掛けるレストランは全て一流になるって噂なんだって』

夢心地で美咲の話を聞いている。

「えらく詳しいね。神楽さんのこと」

『今、検索しながらしゃべってるだけよ』

検索したらそんな情報まで公表されてるレベルってこと。

今日のあのまどろみのような記憶は、きっとすぐにでも忘れなければならない時間だったんだ。

額に手を当て、言葉を失う。

美咲に言えないよね。

神楽さんと連絡先交換しただなんて。

また一緒に食事でもしようって言われたなんて……。















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