夢のまた夢では 終わらない夢
二度目ながら、西城さんの打つ碁石の並びの美しさに見とれてしまう。
美しくて強いって、私にとっては理想の囲碁だから。
前回と同様にあっけなく勝敗が決まる。
「ありがとうございました」
私は西城さんに頭を下げ、碁石を片付け始めた。
「樹ちゃん」
「はい?」
「この後、何か予定ある?」
「……ええ、美容院に行こうかと思ってますが?」
碁石を掴んだ手が止まる。
「予約入れてる?」
「はい、十三時半に」
西城さんは腕時計に目をやり「今、十二時か……」とつぶやく。
そして、私に向き直り言った。
「よかったらお昼でも一緒にどうかな。美容院には間に合うようにするから」
ええ~!
プロ棋士さんとランチなんて!
神楽さんといい、最近はハイレベルな男性と縁がある運気なのかしら。
「よろしいんですか?」
「もちろん。この近くにおいしい洋食屋さんを見つけたんだ。いいかい?」
「はい!ありがとうございます」
洋食かぁ。オムライスにしようかハンバーグにしようか。
私の頭の中には庶民的な洋食屋さんのメニューがずらりと並んでいた。
サロンの外に出ると、西城さんは近くのパーキングに向かう。
車なんだ。
西城さんの車ももちろん高級外車で白いセダン。
一カ月前に乗った神楽さんの黒のセダンを思い出し、慌ててその残像をかき消す。
しばらく走ると、モダンでレトロな昭和初期に建てられたようなベージュ色の壁の小さな建物の前で車は停まった。
車を降り、そのビルの一階にある洋食屋に入る。
赤絨毯がひかれた店内は内装もレトロで、恐らく私が想像していたのと違って洋食と言ってもかなり格の高い洋食店なのだろうと感じた。
メニューもお昼時は全てコースメニューで、思わずその値段に息を呑む。
一番安いコースでも五千円!?
「どのコースにする?」
「まさかコースだなんて思わなくて、軽いノリでついてきてしまってすみません!」
そう言った私を見て、西城さんは楽しそうに笑った。
「いや、大丈夫だよ。じゃ、僕はこのコースを頼むから樹ちゃんも同じでいいかい?」
文句なんて言える立場じゃない。
「はい、同じもので」
結局、西城さんは七千円のコースを頼んでくれた。
どのお料理もおいしくて、メインのエビフライはお皿からはみ出るほど大きくて身がしっかり引きしまっていた。
「お口に合ったかな?」
西城さんは八重歯を見せて笑う。
「すごくおいしかったです」
「それならよかった」
本当においしかったし、ありがたいんだけど……。
だけど、どうして西城さんがこれほど私に親切にしてくれるのか。
本来男性不審の私には理解できない。
神楽さんと同様に理解できない男性の一人でもあった。
美しくて強いって、私にとっては理想の囲碁だから。
前回と同様にあっけなく勝敗が決まる。
「ありがとうございました」
私は西城さんに頭を下げ、碁石を片付け始めた。
「樹ちゃん」
「はい?」
「この後、何か予定ある?」
「……ええ、美容院に行こうかと思ってますが?」
碁石を掴んだ手が止まる。
「予約入れてる?」
「はい、十三時半に」
西城さんは腕時計に目をやり「今、十二時か……」とつぶやく。
そして、私に向き直り言った。
「よかったらお昼でも一緒にどうかな。美容院には間に合うようにするから」
ええ~!
プロ棋士さんとランチなんて!
神楽さんといい、最近はハイレベルな男性と縁がある運気なのかしら。
「よろしいんですか?」
「もちろん。この近くにおいしい洋食屋さんを見つけたんだ。いいかい?」
「はい!ありがとうございます」
洋食かぁ。オムライスにしようかハンバーグにしようか。
私の頭の中には庶民的な洋食屋さんのメニューがずらりと並んでいた。
サロンの外に出ると、西城さんは近くのパーキングに向かう。
車なんだ。
西城さんの車ももちろん高級外車で白いセダン。
一カ月前に乗った神楽さんの黒のセダンを思い出し、慌ててその残像をかき消す。
しばらく走ると、モダンでレトロな昭和初期に建てられたようなベージュ色の壁の小さな建物の前で車は停まった。
車を降り、そのビルの一階にある洋食屋に入る。
赤絨毯がひかれた店内は内装もレトロで、恐らく私が想像していたのと違って洋食と言ってもかなり格の高い洋食店なのだろうと感じた。
メニューもお昼時は全てコースメニューで、思わずその値段に息を呑む。
一番安いコースでも五千円!?
「どのコースにする?」
「まさかコースだなんて思わなくて、軽いノリでついてきてしまってすみません!」
そう言った私を見て、西城さんは楽しそうに笑った。
「いや、大丈夫だよ。じゃ、僕はこのコースを頼むから樹ちゃんも同じでいいかい?」
文句なんて言える立場じゃない。
「はい、同じもので」
結局、西城さんは七千円のコースを頼んでくれた。
どのお料理もおいしくて、メインのエビフライはお皿からはみ出るほど大きくて身がしっかり引きしまっていた。
「お口に合ったかな?」
西城さんは八重歯を見せて笑う。
「すごくおいしかったです」
「それならよかった」
本当においしかったし、ありがたいんだけど……。
だけど、どうして西城さんがこれほど私に親切にしてくれるのか。
本来男性不審の私には理解できない。
神楽さんと同様に理解できない男性の一人でもあった。