【甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。】番外編 「横浜の夜は更けて」
 唇を離すと、亮介さんは愛おしげに目を細めてわたしを見つめた。

「あの夜を思い出すな」
「あの夜って?」
「東京タワー」
 わかってるくせに、と言うふうに、口角を上げる彼。

「ただ、あのときとは気分がまるっきり違う。これで決定的に奈月に嫌われるかもしれないって、内心怯えてたよ。今、思えば」

 そんな弱気なことを言いながらも、不埒な右手は、思わせぶりに背筋をなぞってくる。

「あ……」

「奈月……あの夜みたいに、これからじっくり愛してあげるよ」
 指でわたしの耳たぶをもてあそびながら、息を吹き込むようにつぶやく彼。

「亮介……さん」
 
 彼は微笑みを浮かべ、わたしの手を引いて、バスルームに向かった。
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